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第十章・6
「洪隆会に潜入するため、ヤクザになったふりをしたのさ。いわゆる、スパイだ」
「だからって、こんな」
「こうすれば、奴らはより深く私を信用する。内部から組織を壊すためだ」
嫌いになったか?
駿佑は、聖を見た。
優しい目だ。
刺青の似合わない、愛する人を見るまなざしだ。
聖は、駿佑の左胸にそっと指を這わせた。
心臓のあるそこには、白い牡丹の花が彫られていた。
一般の極道は、蛇や竜、鬼などを彫るのに。
「きれいです、お花」
「彫り物だぞ」
「僕、これくらいでサヨナラなんかしませんから。絶対に、しませんから」
「聖」
温かな湯の中で抱き合い、温かな口づけを交わした。
(僕の駿佑さんは、どんな姿になっても、僕の駿佑さんなんだ)
「駿佑さん……、挿れてください。今すぐ」
「湯の中でか?」
「早く、一つになりたいんです」
切羽詰まった聖に訴えに、駿佑は応えた。
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