89 / 118
第十二章 3月25日、午前2時、勝巳漁港。
夜の繁華街。
駿佑は、そこを一人で歩いていた。
雑踏をかき分け、こちらに進んできたのは、洪隆会の組員たちだ。
「おう。飛沢じゃねえか」
「お疲れ様です、稲垣(いながき)さん」
稲垣は、組の舎弟の一人だ。
かなり権力を持っていて、組長に意見することもあるという。
そんな稲垣が、若い者を従えて駿佑に声をかけた。
「一人ぼっちで何やってる。一緒に来い。これから、パーティーだ」
「ありがとうございます。しかし……」
駿佑は、小指を立てた。
「今から、コイツと会う約束なんで」
にやり、と稲垣は口の端を上げた。
「さすが色男。今度は、付き合えよ」
「はい、必ず」
駿佑は、稲垣の背中が消えるまで見送った。
ともだちにシェアしよう!