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第十二章・2

「稲垣さんの誘いを断るなんて、すかした奴ですぜ」 「一度、シメた方がよくないですか?」  まあ、そう言うな、と稲垣はそれらの言葉を手で払った。 「まだ若いのに、肝の据わった奴だと思ってる。案外、出世するかもしれねえぞ」  ざわつく若者たちを黙らせ、稲垣は息のかかったクラブへ入った。  美容整形と厚化粧で作られた美女たちに囲まれ、若者たちは上機嫌だ。  稲垣は、高価なシャンパンの注がれたグラスを傾けながら駿佑のことを考えていた。 (飛沢。あの妙な落ち着きは、修羅場をくぐってきた者が持つ強みだ)  履歴は白く、背景もないというが、果たして……。 「稲垣さん、カラオケ入れました!」 「十八番、お願いします!」 「あ? ああ、よし歌うか!」  若者はすでに駿佑のことなど忘れていたし、稲垣も歌など歌っているうちに頭の中から消してしまった。  ただ、駿佑はその間にも掃除の準備を着々と進めていた。

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