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第十二章・3
料亭の一室で、駿佑は一人の男と会っていた。
私服だが、眼光の鋭いこの男は、この街の警部だった。
もくもくと二人は、料理を食べ、酒ではなく茶を飲んだ。
そして時々、ペンを走らせた。
『3月25日』
駿佑がそう書くと警部はうなずき、その紙片を料理と一緒に食べてしまった。
『午前2時』
警部は、これもうなずき食べた。
『勝巳(かつみ)漁港』
警部は初めて眉をひそめ、駿佑を見た。
「あんな田舎で?」
「湾が深い漁港です。割と大型船も入れます」
「解った」
警部は、同じように駿佑の書いた紙片を食べてしまった。
「ご苦労だったな。後は俺に任せてくれ」
情報はすべて記憶し、警部は席を立った。
声に出さない、紙片を残さないことは、全て秘密裏に事を運ぶためだった。
誰に知られても、いけない。
警部はそのまま、一人で料亭を出ていった。
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