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第十二章・8
「腹這いになり、手足を広げろ。繰り返す。腹這いになり、手足を広げろ!」
は、と稲垣たちは周囲を見回した。
サーチライトの逆光で見づらいが、そこら中に自分らを一網打尽にしている機動隊、警官、海上保安官の巡視艇が!
「しまった!」
「どこから情報が漏れたんだ!?」
これだけの配備を敷くには、事前に密告があったと考える方が正しいだろう。
その時稲垣は、サーチライトの方角にいる男と、アイコンタクトをしている駿佑の姿を見た。
「飛沢、お前か!」
ぱん、と乾いた音を駿佑は聞いた。
そして、腹に衝撃が。
(しくじった!)
稲垣の弾丸は、駿佑の背中から腹部を貫通していた。
最後の最後で、気が緩んだ。
大人しく、逮捕されるはずでいたのに!
銃声に反応したのは、駿佑だけではなかった。
警部が、すぐに拳銃を抜き、稲垣を撃った。
「ッ……!」
稲垣はその場に倒れ、動かなくなった。
「飛沢!」
警部が駆け寄ると、駿佑は手で腹を押さえ膝を折っていた。
血が、出る。
どんどん出て来る。
だが、駿佑は微笑んだ。
(掃除、完了……)
なぜか聖の笑顔が、その脳裏に浮かんで消えた。
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