111 / 118
第十四章・6
夏休み前の平日なので、入園客は少ない。
そこで駿佑は、並んで歩く聖の手を握った。
「あ、駿佑さん!?」
「誰も見ていないぞ」
照れるなぁ、と小さな声で聖は言い、それでも嬉しそうに顔を上げた。
「でも、手触り悪いでしょう? 花屋さんだから」
聖の手は、水と液剤と、それから茎や棘でのケガとで荒れている。
そんな聖の手に優しく口づけ、駿佑は頬ずりした。
「働き者の手だ。どんなタレントの手より美しい」
「しゅ、駿佑さん、ってば!」
何か今日は、やたらと甘くて優しい駿佑だ。
触れられると、溶けてしまいそうになる心地を覚えながら、聖は大いに照れた。
木陰で少し休む時には、やたらしつこく駿佑がキスをしようとしてくる。
焦ってよけながら、聖はきゃっきゃと笑っていた。
「ホントにもう、どうしたんですか? 今日の駿佑さんは、変ですよ?」
「魔法使いのお婆さんから、魔法をかけられてしまったんだ。キスしてくれれば、魔法は解ける」
魔法使いのお婆さんって、元町さんのことかな?
『早く結婚なさい。そして、赤ちゃんの顔を見せて』
あの言葉を、駿佑は意識しているのだろうか。
「隙あり」
「ん、むッ!」
とうとう聖の唇は、捕えられてしまった。
ともだちにシェアしよう!