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第十四章・6

 夏休み前の平日なので、入園客は少ない。  そこで駿佑は、並んで歩く聖の手を握った。 「あ、駿佑さん!?」 「誰も見ていないぞ」  照れるなぁ、と小さな声で聖は言い、それでも嬉しそうに顔を上げた。 「でも、手触り悪いでしょう? 花屋さんだから」  聖の手は、水と液剤と、それから茎や棘でのケガとで荒れている。  そんな聖の手に優しく口づけ、駿佑は頬ずりした。 「働き者の手だ。どんなタレントの手より美しい」 「しゅ、駿佑さん、ってば!」  何か今日は、やたらと甘くて優しい駿佑だ。  触れられると、溶けてしまいそうになる心地を覚えながら、聖は大いに照れた。  木陰で少し休む時には、やたらしつこく駿佑がキスをしようとしてくる。  焦ってよけながら、聖はきゃっきゃと笑っていた。 「ホントにもう、どうしたんですか? 今日の駿佑さんは、変ですよ?」 「魔法使いのお婆さんから、魔法をかけられてしまったんだ。キスしてくれれば、魔法は解ける」  魔法使いのお婆さんって、元町さんのことかな?   『早く結婚なさい。そして、赤ちゃんの顔を見せて』  あの言葉を、駿佑は意識しているのだろうか。 「隙あり」 「ん、むッ!」  とうとう聖の唇は、捕えられてしまった。

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