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ストーカーですか?【1】(過去話)

 俺の趣味は情報収集。  普段は桂島冬馬(かつらしま とうま)というしがない大学生。  しかし、大学に行く傍ら、暇さえあれば様々な情報を拾い上げ、それを高く売りつけるような情報屋をやっている。裏の世界では『空蝉(うつせみ)』という二つ名で、そこそこ知られていた。  俺が得意とするのは、隠されている秘密を暴く類のもの。それこそ、人間関係やその人物の弱みといった、入手した側が手っ取り早く相手にダメージを与えられるものを見抜くのが一番得意だ。パソコンやら何やら使えるものはすべて使い情報を収集して、時たま情報操作までしたりする。俺の情報が漏洩するなんて冗談じゃないし。  情報屋なんてのは恨みも買うし、狙われやすいし、実体が掴めないのがベストだ。ぼうっとしながらかなり重要度の高い情報を入手したりするから、冗談じゃなく命を狙われる可能性は高い。  まぁ、自分自身を命の危険に晒しつつやってる最低な趣味といったらそうだが、一応これも自分自身を守るために身につけたものだ。だから、そうさせた環境も悪いんじゃないかと、いつも世間に責任転嫁をしてみる訳だ。誰も頷いてはくれないけれど。  ただ、確かにそんな状況で、スリルに酔いしれ楽しんでいるところはある。でも、本当に俺が求めてるのは、そんなものじゃない気がしていた。  高校の頃からひとりで生きていたし、情報屋をやり始めたのもその頃だ。そのまま周りに流され大学に進学したものの、毎日暇で仕方がない。楽しいことを探そうにも、特にコレといったものが見つからない。  あの頃からただ機械的に繰り返す毎日がつまらなくて、自分自身の中が空っぽのようだった。  だから余計に俺は趣味の範囲を超えて、『情報』というもので空っぽの自分の中を埋め尽くすために、貪欲に取り入れようとしているのかもしれない。  そんな暇つぶしに集めている情報を買いに来るのは、チームだなんだと群れているガキだったり、それこそ政界のお偉いさんの部下だったりとピンキリだ。  俺にとってはどうでもいい情報が、買いに来る奴らにとってはお宝なんだっていうから、世の中ってのは不思議だ。  俺の持っている情報が、一人の人間の世界を変える。影響力が半端無いということはきちんと自覚している。  しかしながら、それが当人にとってとてつもない変化であっても、俺にとっては何処か遠い世界のちっぽけな変化で、俺自身の世界は何も変わらない。  だから、売った情報のせいでどうなろうと、俺の知ったことではなかった。  ただ毎日溢れかえる情報を整理し、自分の中にしまい込む。でもどんなに詰め込んでも飽和状態になることなんて一度もなかった。  ブラックホールかと思うくらい、詰め込んでも詰め込んでもまだ足りない。  俺の中はいつまでたっても空っぽだった。  そんなある日。  俺は情報収集も兼ねて、ふらふらと夜の街に繰り出した。ターゲットは最近族潰し的なことをしているという三人組。  この地域で上位にあるチームのうちのいくつかを、あっという間に壊滅させたらしい。  そしてその圧倒的な力と存在感に惚れ込み、支持する者が増えに増えてそれが新たなチームになったとか、それを三人組が拒否して親衛隊的なものになってるとかなってないとか。  族潰しに親衛隊とかファンが付くとかあまりにも突拍子もない話で、初めてその情報を見た時は吹き出した。  そんなこともあって、たまには現地視察ってのもありか、と俺は街をぶらついていた。  目的地は特にない。  三人組は神出鬼没で、現れる曜日も場所も決まっていないらしい。  分かっているのは、しーな、なお、しの、という名前と、全てに置いてやる気のない雰囲気の持ち主たちってことだけ。容姿も毎度違うようで、目撃情報に統一性がない。  というか、やる気のない雰囲気の奴らが血気盛んに族潰し、とかまったく意味が分からないんだが。  まぁ、そんなとこに興味が湧いたってのもわざわざ街に出てきた理由の一つなんだが、いかんせん情報が少なすぎる。  誰か情報操作に長けた奴が居るのか、と思って調べてみても、特にそういう形跡はなかったから、ただ単に容姿を変えたりすることで攪乱しているだけなんだろう。 「……腕が鳴る」  口元が僅かに上がる。  インドア派の俺をわざわざ外に出させたんだから楽しませろよ、と胸の内で呟いて俺は歩を進めた。

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