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ストーカーですか?(過去話)【3】
その日の夜。
俺はパソコンの前で情報を見比べながら唸る。やはり朝も感じたとおり、噂の三人の行動が今までとは違うのだ。
捜していた人物とは誰の事だ。まずはそれが知りたい。敵と認識しなければ、周りには興味も関心も抱かない三人組の心を動かしたのは誰か。そのネタは多くの者に高値で売れるだろう。
「いったい誰を捜してたんだ……?」
この件に関しては、ネットに散らばる情報が少なすぎて埒があかない。
溜息を吐きつつ、俺はパソコンをスリープにして大きく伸びをした。
心の中の空白が埋まらずイライラが止まらない。もっと情報が欲しいのに、あの三人組に関してはまったくといってもいいほど手元に欲しい情報が落ちてこない。どんなに捜しても届かないこのジレンマ。しかし、手にした時には、きっと今までにない充足感を得られるに違いない。
「やっぱり足で稼ぐしかないか……」
面倒くさい、と呟きながら、俺は風呂の用意を始める。風呂釜にお湯を溜めながら、もう一度深い溜息を吐いた。
明日の講義は一限目からで、しかも遅刻者にはたいへん厳しい教授の講義であるため遅刻は許されない。
すぐにでも夜の町へ繰り出したいところだが、今日はもう遅かった。涙をのんで明日以降に捜しに行く事にする。すぐに謎が解けないのは気持ちが悪いが、まず目先のことを優先しなければ。
俺の日頃の立ち位置は優等生だ。目立たず今までと変わらず過ごすには、この立ち位置を変えるわけにはいかない。
「見てろよ、三人組」
俺は必ず見つけてやる、と心に誓い、風呂場に直行した。
そして、俺は真面目に朝イチの講義を受け、志紀の昨日に引き続く慰めを適当に躱し、依頼人に情報を高値で売りつけ夜の街へと繰り出していた。
何度も言うが、俺は足で稼ぐ事が大嫌いだ。インドア派舐めんな、とぼやきつつ人混みを歩く。
今日も今日とて人が多い。こいつら全員予定があって動いているんだろうか。そんなに街には楽しいことがあるんだろうか。動き回るのがだるくて仕方の無い俺には無縁の世界だと思ってしまう。
夜の街並みで当てもなく歩いてるのは俺くらいじゃないだろうか、という気になりつつも、目当ての人物を捜す。三人組を捜すという目的があるのだから、当てもなくという訳ではないが、その三人組がどこにいるのかが分からない。無駄な時間を過ごしているようで、無意識に溜息が漏れた。
今日も収穫無しかもな、と珍しく弱気になりながら街を歩く。
まったく頼まれてもいない三人組を捜すなんて馬鹿みたいだと思いつつも、なぜか捜す事を止められなかった。
ここまで決定的な情報も何もかもが見当たらない相手だ。ただ単に、いつものように簡単に見つけられなくて意地になっているのかもしれなかったが、俺は賑わう人々の間をすり抜け歩き続けた。
しつこい客引きを軽くあしらい、ただ自分の勘を頼りに先を急ぐ。
どうにかして見つけ出したい、その一心で俺は動いていた。
しかし、今日も見つける事はできないようだ。
運がないのだと諦めるにはまだ早いように思えたが、残念な事に賑やかな繁華街も終わりを告げる。
繁華街を抜け静かな公園まで辿り着き、いちゃつくカップルを冷やかすように、そのど真ん中を通り抜けた俺は諦めて帰途につく。
「バッカみてぇ……」
不快感を露わに俺は今日何度目かの溜息を吐き、狭い路地裏を通り抜け家路を急いだ。
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