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ストーカーですか?【4】(過去話)
そんな俺としては珍しい行動を繰り返した数日後。思わぬところで動きがあった。
駅からの道を歩いてる時だ。擦れ違った時に小さく声を上げた奴がいた。その時周りには俺以外居なかったから、俺に対しての声か、もしくは何か思い出してうっかり声を上げてしまったかのどちらかに違いない。俺は気付かれないようにそのまま一つ目の角を曲がり、更にすぐ細い小道を曲がって様子を窺う。もし俺に用があるなら追いかけてくるだろうし、追いかけてこなかったらたいしたことではなかったのだ、きっと。
しかし、一向に追いかけてくる気配が無い。
俺は、そんなものか、と腰を上げいつもの道に戻ろうと歩き出した。
その時だった。戸惑うような足音が先ほどの道から聞こえ、細い小道に入っていた俺には気付かずに、直線になったからか駆け足で目の前を通り過ぎていく。やはり俺に用事があったようだ。
通り過ぎていったのは、黒髪の眼鏡をかけたぱっとしない風貌の男だった。記憶をたどってみても顔に覚えがない。そう結論を出した俺だったが、ふと頭の片隅にあった記憶がよみがえる。街中で演奏していた異色だった三人組の一人だった。あまり印象が強くなかったため今の今まで忘れていた。しかし、声が上がった時に、あの三人が演奏していた曲を無意識に口ずさんでいた。それを聞いて追ってきたのかもしれない。
見つからない三人組と奇妙な三人組はイコールなのかは分からない。けれど、奇妙な三人組にも興味が湧いた。見つからない三人組を探しつつ、俺に興味を持ったらしい三人組に接触してみても良いかもしれない。違うなら違うで他の手を考えれば良いし、ただすれ違っただけのヤツを追いかけてくるってことは何か用事があるのだろうし、それが何かは気になる。
今から追いかけても良いけど、それだと俺がわざと隠れていたことがバレてしまうし、今日の所はこのままで。
ま、その内また会うかもしれないし。同じ駅を利用している位だから、案外近くに住んでいるんじゃないかと思う。
俺のことをもう一度見つけられたら話を聞いてやることにしよう。
そんな傲慢なことを考えつつ、俺は男が走り去った方に背を向け、先ほど来た道を戻り家へと向かった。
そして、俺は昨日の自分がずいぶんと甘い考えを持っていたことに気が付く。
授業を終えた俺は我が家の最寄り駅から出て、目の前にあるガードレールに腰掛けた野暮ったい男を見つけた。
昨日のあいつだ。頭が左右に揺れるから出てくる人々に目を向け探しているようだが、目を覆うくらい長めの前髪からはその視線がどこへ向けられているのか分かりづらい。
そっと気付かれないように目を逸らしつつ、人混みに紛れて歩き出す。まさか出待ちされているとは思わなかった。
暇なのか必死なのか分からないが昨日の今日でいるとは思わなかったし、昨日は本当に追いかけてきてたんだなと確信した。
男はいつからそこで待っていたのだろう。そしていつまでそこにいるのか。
自分が悪いわけではないが、気付いてしまうとなんとなく後ろめたい気持ちになる。
でも俺の知ったことではないか、と帰宅したが、寝るまで男のことが気になって仕方がなかった。
それから一週間経っても、男の出待ちは続く。見る度に深い溜息が漏れた。
俺はそこまでして捜さないといけない人物ではないと思う。ただ三人が演奏していた曲を聴いて、たまたまメロディを覚えてしまって口ずさんだだけだ。それをすれ違ったときに聞いただけで、一週間もその男を捜すために粘るってどんな執念なんだろう。
数日前は気になって何時くらいまで粘っているのだろうと興味本位で隠れて確認していたら、終電まで頑張っていて怖かった。
追われる恐ろしさってこれか、と俺は知りたくなかった事実に頭を悩ませながら、今日も男から目を逸らしつつ歩き出す。
ストーカーも真っ青というか、もはやストーカーだろ、あいつ。
ただ、あの男は追いかけている人物が俺だと知らないから、追われている、ストーカーだと認識してるのは俺だけなんだけど。
純粋に捜しているだけなんだろうけど、あの執念は怖い。でも俺が謎の三人組を追いかけてるのも同じ類いのものだから、同じ穴の狢なのかもしれない。
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