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第11話 和解

「浩二……」 「大丈夫。 ちゃんと聞いてるよ。 ゆっくりで良いから、 ちゃんと話して? 罵倒でも、何でも良いから ちゃんとカイから聞きたい。 僕に何か言いたいことがあったから ずっと電話してくれてたんだよね?」 そう言うと、カイは泣きそうな声で話し始めた。 「浩二…… 僕、ずっと浩二の事を恨もうと思っていた」 「うん」 「でも…… 出来なくて…… やっぱり浩二が好きで…… 声が聴きたくて…… 顔が見たくて……」 「うん」 「でも浩二は今でも運命を探しているんでしょう?」 僕は目を閉じて深呼吸した。 「カイ、君の気持ちは凄く嬉しい。 君は僕の心を凄く温かくしてくれた。 失恋で心が折れていた僕を、 カイは凄く助けてくれた。 僕の浅はかな思いでカイを傷つけてしまったけど、 僕はカイに会えて良かったと思っている。 君の事は友として愛しているし、尊敬している。 でも僕の君に対する愛は、君が僕に向ける気持ちとは違う。 ずっと君を愛せればいいと思っていたけど、 やっぱり僕は、僕の運命を見つける事を諦めきれない。 僕の好きだった人が実際に運命の番を見つけてからは特に……」 暫く沈黙があった後、カイは要君の事について尋ね始めた。 「ねえ浩二、君の好きだった、 後輩の事を聞かせてくれる?」 「本当に話しても大丈夫なの?」 「僕もね、浩二の元をさってからずっと考えてたことがあるんだ…… その時に思ったんだ。 浩二の好きになった子の話を聞いてみたいって…… だから、聞かせてくれる?」 「分かった。 彼の名前は赤城要。 Ωの男の子で僕の二つ下の後輩だったんだ」 「彼とはどうやって知り合ったの?」 「後で気付いたんだけど、 僕は彼がハイスクールにやってくる前から知ってたんだよ」 「それって……どういう意味?」 「僕はハイスクールまでは歩きだったんだけど、 途中に大きな公園があるんだよ。 そこを通るときに、時々見かける男の子がいて……」 「それが要だったの?」 「うん。 そうだよ。 君もお母さんが日本人だから知ってると思うけど、 日本のハイスクールは受験制で、 アメリカの様に住んでる校区内の高校へ行くわけじゃ無いんだ。 だから凄い偶然だったんだ…… 彼が僕と同じハイスクールに来たことは……」 「日本のハイスクールについては聞いた事があるけど、 どうやって要との関係は始まったの?」 「うん、彼を公園で見かけてたってところまで戻るけど、 彼はその公園で良くスケッチをしていたんだ。 僕も絵を描く事が好きだったからいつか声をかけようと思っていて…… でもある日を境にピッタリと見なくなっちゃって…… いざ見なくなっちゃうと、別に知り合いでもなかったんだけど、 なんだか寂しいなって思って…… もうこのままなのかなって……」 「それでどうなったの?」 「ハイスクールの入学式の案内をやっている時に、 会っちゃってね。 新入生としてやって来たんだよ。 だから、あ〜 受験の為に会えなかったのかって…… その時すごく不思議な感覚がしたんだよ。 まだ知り合ってもいなかったのに、 会えて凄く嬉しかったことを良く覚えている。 何だかずっと彼を探していた様な気がして…… すぐに同じ美術部に誘ったよ」 「じゃあそれが出会いだったんだね」 「うん」 そう言って 相槌を打った。 「じゃあさ、彼に告白されて、 その後浩二が彼に失恋したって言ってた関係は?」 「僕と要君の感性は良く似ていてね、 お互い運命の番に憧れてたんだよ。 実際に会う確率なんて無きに等しいのにね」 「そうだよね。 アメリカでは運命の番は伝説だとしてみられてるから、 軽視している人が殆どだけど、 日本では未だ信じてる人達が居るんだね」 「僕にとって運命の番を見つける事は夢だったんだけど、 要君にとっては真実だったんだ」 「じゃあそれって……」 「彼のご両親は運命の番だったんだよ」 「本当に居るんだ……」 「そうだね…… 僕も知った時は凄く興奮したよ。 要君も、このハイスクールに来たのは ご両親が運命の番として出会った場所だったから。 きっと願掛けの様な物だったんだろうね。 凄く健気だったよ。 何にでも一生懸命で。 そんな彼の事を本当の弟の様に可愛がったよ。 僕も彼も一人っ子だったから、 僕を信頼して頼ってくる姿は、とても愛おしく感じていた。 とても大切な子だった。 彼が運命の番をずっと探してるって言った時は、 本気で手助けしようと思ってたんだよ。 でもある事がきっかけで僕に告白してくれる事になったんだけど……」 「ある事って?」 「要君ね、 偶然…… いや、あれは必然だったんだろう…… 知らず知らずして出会ってしまったんだよ。 運命の番に。 でもその事に彼は気付いていなくて…… αに出会ったんだったら、全ての可能性に賭けろって諭したら、 要君、本当は僕の事が好きだから今は他の人は考えられないって……」 「じゃあその時の浩二には他に好きな人がいたんだよね?」 「そうなんだ。 後で気付いたんだけど、僕のは憧れと恋を取り違えていただけなんだよね。 要君が他の男に取られるってなった時、 初めて彼に対する思いは恋だって気付いたのさ。 でもその時は後の祭りでね、 もう既に彼の運命の番と愛を確かめ合った後だったよ。 そうなったらもう敵わないよね。 最後の最後にあがきで告白したけど、 やっぱり振られたよ。 初恋って日本では実らないって言うんだけど、 僕はずっと初恋に縛られてる」 「ねえ、僕ってそんなに要に似てるの?」 「そうだね、人によっては違う意見があると思うけど、 僕から見ると、カイは彼にそっくりだよ。 髪の色や目の色、 笑った顔や怒った顔、 雰囲気や仕草までもが似ている…… ただ違うのは声…… 僕今初めてカイの声を聞いたような気がしてるんだ。 多分それって、僕がカイの事をカイとして見れるようになった為だと思う……」 「そうか…… 今要はどうしてるの?」 「僕の幼馴染が彼の運命の番なんだけど、 今頃はイチャイチャ、ベタベタ仲良くしてるんじゃないかな? 見ていて本当に魂が結ばれてるんだなって思ったもん。 彼等には幸せになって欲しいよ。 そうでないと僕が浮かばれないよ……ハハ」 「浩二もつらかったんだね……」 「いや、僕がカイにした仕打ちに比べればこんなの……」 「僕ね、ロサンゼルスに帰って来てからずっと考えていた事があったんだ」 「何? 何を考えていたの?」 「僕は凄く浩二が好きだし、 あんなことを言われて腹が立って、 怒ってそのままここへ逃げ込んできたけど、 やっぱり浩二が大好きで…… 諦められなくて…… ずっと、ニューヨークにもどって、 浩二の迷惑になっても傍に居ようかとか、 色々と考えてたんだけど、 浩二と話して、決めたよ。 僕はここで頑張っていく!」 「カイ……」 「僕は浩二の事を愛してるから、 浩二の思いを受け入れる。 本当は僕が傍に居て、僕が浩二を幸せにしてあげたいけど、 僕はここから応援している! 最後に浩二とは話が出来て良かったよ。 浩二…… ちゃんと幸せになってね。 浩二が幸せになったら、 きっと僕も幸せになれると思うから!」 会話はビデオ通話では無かったけど、 僕はそう言ってにっこりと笑うカイの笑顔を 握りしめた携帯の向こうに見たような気がした。

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