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第24話 僕と佐々木家

詩織さんの、 “陽一君が僕を好き” って発言はとても僕をびっくりさせたけど、 多分詩織さんも家族愛をそう言う風に取ったのだろうと思っていた。 「陽一君は13歳って言ったっけ? この頃の年って多感な年頃だから、 扱いが難しいわよね。 余り邪見にして傷つけるのも可哀そうだし、 構いすぎても勘違いしちゃうからね、 気を付けてあげてね」 そう彼女に言われなんだか胸がモヤっとした。 確かに僕は陽一君に構いすぎる事はあるけど、 それは家族の様に、弟のようにだ。 陽一君も勘違いしていると言う様な態度は無い。 陽一君の僕に対する態度も、 親戚のお兄さんか叔父さんのような感じだ。 陽一君については、僕は詩織さんの思い過ごしだと思った。 「ねえ、どうして陽一君が僕の事好きだと思ったの?」 彼女の見解に興味があった。 「矢野さんには分からなかったの? 彼、とても分かり易いわよ。 私を見てあからさまに動揺してたし、 ショック受けてたみたいよ? まあ、あの年の頃は大人の男性に憧れる年だしね~ 社会へ出たら何故あの時は…… って思っておかしくなっちゃうんだけど…… よっぽど運命の番って言わない限り、 13歳は無いでしょう?」 「運命の番……?」 「そうよ、矢野さんは信じて無いの?」 「イヤ…… 陽一君が僕の運命の番って確率…… 在るのかな……?」 「フフフ、 運命の番って言っても、 年が離れ過ぎてない? 私、運命って言うくらいだから ちゃんと確率的に同じ世代や育った環境など、 自分にとって適正な人だと思うんだけど…… そうじゃないと、恋に落ちるのって難しくない? 運命の番なのに恋に落ちれないって、それってあんまりよね? だから13歳はありえないかな~って…… まさか矢野さん…… もしかして……」 「あ、いや、違うよ、 僕もそれはあり得ないって思うし……」 「でしょう?」 そう言いながらも、 僕のモヤモヤとした気持ちは全然良くならなかった。 陽一君が僕に恋心を抱いているとは思えないけど、 もしそうだったら僕はどうするんだろう? 受け入れられるのだろうか? 「矢野さん、ご飯の準備できたわよ」 そう声を掛けられダイニングに回ると、 美味しそうにグツグツとすき焼きが音を立てていた。 「美味しそうだね」 そう言ってテーブルに座ると、 「さ、どんどん食べて」 そう言って詩織さんは、 ご飯と、卵の入ったお椀を僕に渡してくれた。 フーフーと食べ始めると、 彼女のすき焼きは凄く美味しかった。 「凄く美味しいよ。 僕も時々作るけど、味が全然違うね」 そう言うと、 「矢野さんって料理するんでしょう? 調味料の量がすごいもん! 料理器具もきちんとそろってるし、 料理する人のキッチン!て感じ。 このキッチンを見た瞬間、 手料理を振る舞うなんて、失敗したかなって思ったんだけど、 私のお料理がちゃんと口にあってもらえて良かったわ」 と彼女が返した。 実を言うと、僕のキッチンの物は、 殆ど言っていいほど、陽一君によって持ち込まれたものだ。 彼は僕が初めてお泊りをした時から、 頻繁に食事を作りに来てくれている。 それは前に、僕が不摂生で フラフラだったところを裕也にレスキューされたからだ。 その頃は仕事を母親から譲ってもらい、 忙しい日々を過ごしていたので、 仕事の事で一杯、一杯で、 ついついエナジードリンクに頼りすぎてしまった。 少し体重が落ちたかな~って感じはあったけど、 余り気にも留めていなかった。 何時もはオフィスに来た要君に指摘されるけど、 あの時ばかりは暫く要君とも会えなかった。 僕が過労で1日入院した時は、 陽一君にオイオイ泣かれて、 それから彼は僕に食事を届けてくれるようになったけど、 ここで作った方が温かで速いからと、 あのお泊り以来時間を見つけては突撃してくれるようになった。 恐らくお泊りした時に、もっと僕の懐に入れたと思ったんだろう。 「矢野さん? どうしたの? 何か嫌いな物でも入っていた?」 詩織さんが心配そうに僕を覗き込んでいた。 知らないうちに陽一君の事で頭がいっぱいになって、 箸が全然進んでいなかった。 「あ、ゴメン、 ちょっと明日の仕事の事を考えてて……」 詩織さんには悪いけど嘘をついてしまった。 「矢野さんってお母さまから会社を継いで、 今では社長さんなんですよね?」 「ハハハ、お恥ずかしながら一部の会社なんだけどね」 「でもいつかは全て受け継がれるんでしょう?」 「まあ、そうだけど、 果たしていつになるかハハハ~」 「凄いわね、 未来の社長さんか~ 確かアメリカの大学を出られるんですよね? MBAも持ってらっしゃるってお聞きしたんですけど……」 「誰がそんな事言ったんですか?」 「え? 違うんですか?」 「いや、そうだけど、 別に自慢する事でもないから、 あまり知ってる人は少ないんだけどね」 「謙遜なのね。 私が矢野さんだったら自慢しまくってるわ…… もし矢野さんが私の恋人の場合でもね……」 そう言って彼女はちょっと頬を赤らめた。 僕は彼女を見て微笑んだ。 「矢野さんは今恋人はいないってだけど、 私なんて如何かしら? 運命の番とまでは行かなくても、 良いパートナーになるんじゃないかしら?」 彼女に微笑んだ途端、 彼女はそういう風に持ってきた。 「ハハハ、直球で来たね」 そう言うと、彼女は更に真っ赤になっていた。 「ごめんなさい、 はしたない質問でしたね」 「いえ、良いんだよ。 詩織さんは奥ゆかしいんだね。 実を言うと恋人は欲しいんだけど、 ちょっと今訳ありでね」 僕はまだ誰か一人とステディになるのが怖かった。 恐らくカイの時の記憶がそうさせていたのだろう。 そう言えば、あれからもう10年か~ カイは良い人を見つけたんだろうか? 詩織さんと会話をしながらそんなことを考えていた。 カイの望み通り、あれから一度もカイと連絡を取っていない。 何だか無性にカイに会いたくなった。 カイに会って、僕の今の訳の分からない気持ちを聞いて欲しかった。 「どうしたの?  今日はちょっと上の空かしら? お仕事がやっぱり忙しいのね。 明日は私も仕事だし、 お方付けをして、私もお暇するわ」 話が個人的な付き合に入っていくと、 たちまちぎこちなくなる。 だから詩織さんが帰りを切り出したので丁度良かったと思った。 「僕が方付けておくから大丈夫だよ。 明日は朝一でミーティングなんでしょ? 心配しないで良いよ」 「また来てもいいかしら?」 の問いに、ノーとは言えなかった。 詩織さんが去って、 僕は思い立った様に佐々木家のインターホンを鳴らした。 「なんの用だ、浩二?」 ドアに出てきたのは裕也だった。 「ちょっと、ちょっと佐々木先輩、 何言ってるんですか! 矢野先輩、どうしたんですか? 上がりますか?」 続いてやって来た要君がそう声を掛けてくれた。 「陽一をいじめる様な奴は帰れ、帰れ」 相変わらず裕也は僕に対して塩対応だ。 「ちょ…… 佐々木先輩、何失礼な事言ってるんですか!」 「ハハハ、要君も未だに裕也の事佐々木先輩止まりなんだね」 僕がそういうと、 要君は顔を真っ赤にして裕也を見上げた。 そして照れた様に微笑んだ。 「何だか先輩呼びの方がしっくりときて……」 照れながらそう言う要君がとても可愛く見えた。 佐々木家のΩ諸君は僕にモテるフェロモンを出しているのかも知れない。 「ねえ、陽一君いる?」 僕がそう尋ねると、またまた 「陽一に何の用だよ?」 裕也がそうぶっきら棒に言うと、 「ちょっと先輩!」 と要君が裕也の背中をバシバシと叩いていた。 「陽ちゃ〜ん! 矢野先輩が来てるよ〜」 要君が陽一君を呼ぶと、 彼はすぐに奥からやって来てくれた。 「矢野の叔父さん、お兄ちゃんね、 叔父さんだって分かってから、そこの陰でソワソワしてたんだよ」 愛里ちゃんも一緒にやって来た。 「あ〜ちゃん!」 陽一君はそう言いて真っ赤にしていたけど、 「どうしたんですか? もうあの女性は帰ったんですか?」 と気を取り戻したようにして尋ねた。 「そうだよ。 ただ食事を作りに来ただけだから……」 僕がそう言うと、 「向こうはそう思って無いんじゃないか〜?」 そう言う裕也に要君が後ろから蹴りを入れていた。 「ねえ、ちょっとコンビニまで行こうと思ってるんだけど、 一緒に行かない?」 僕が尋ねると、陽一君よりも先に要君が、 「陽ちゃん、折角の先輩のお誘いだから、 是非行っておいでよ! そしてついでにお散歩なんか……」 と言ったところで、今度は要君が裕也に蹴りを入れられて居た。 この家族は漫才の様で面白い。 でも、僕が誘ったあと陽一君は満面の笑みを浮かべて、 「はい!」 と嬉しそうに言った。 その時の笑顔が眩しくて、 僕に取ってはとても印象的だった。

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