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第25話 散歩道

「最近学校はどうなの? もう慣れた? 新しい友達は出来たの? 先生たちは皆優しい?」 陽一君はニコニコとして僕を見た。 「先輩覚えてる? 先輩が僕のナイトになってくれた日! 僕にはあの約束があるから、 どんな時でも安心して新しい事に飛び込んでいけるんだよ。 何があっても僕には先輩が居てくれるからね! でも心配しないで。 凄く楽しんでいるよ!」 「そうだよね。 陽一君は優しいから、直ぐに新しい友達も出来るよね。 それに、今でもその約束は健在だよ。 僕は永遠に陽一君のナイトだからね! だから、もし何かあったらすぐに言ってよ? 僕は陽一君の為だったら何があっても直ぐに駆けつけるから!」 「知ってるよ!」 そう言って彼は微笑んだ。 「じゃあ、新しい学校ではうまく行ってるんだね?」 「うん、楽しいよ。 小学校の時の友達とはクラスが離れちゃったけど、 新しい友達も沢山出来たし、何と言っても、この情報…… 先輩も驚くかも!」 「え? 何? 何? 僕の知ってる事?」 「へへへ~ 実を言うとね、 幼稚園で一緒だった智君が同じ学校区になったんだ。 覚えてる? 智君の事! 先輩も一緒に公園で遊んだことあるんだよ!」 「え? 智君って…… ずっと陽一君の事、女の子だって思ってた、 あの智樹くん?」 「そうなんだよ。 小学校は違う校区だったけど、 中学校では同じだったなんてびっくりだよ。 小さい時は隣町って隣の県みたいに遠く感じたけど、 実はすごく近かったんだね。 智君、僕の事遠くから見ても直ぐに分かったみたいで、 直ぐにあいさつしに来てくれたんだよ! 智君はちょっと男らしくなってたんだけど、 最後に会ったのって幼稚園の卒園式だったからね~ 僕の制服姿見て、 陽ちゃんってやっぱり男の子だったんだって 再度ビックリされたよ。 それにね、僕がΩだって分かったら これからは自分が守ってあげるって意気込んでた! 可笑しいよね。 幼稚園の時は僕のこといじめてたのに。 ま、僕は負けなかったけどさ!」 陽一君はそう言って 楽しそうに智君との再会の話や、 学校での出来事を話してくれた。 でも智君が陽一君の第二次性を知ってる? イヤだ…… 智君に陽一君がΩだとバレた事が イヤだった。 きっと智君はαだ。 いや、智君だけじゃなく、 僕は陽一君を他のα達から隠したかった。 陽一君がΩだと言う事を、 誰にも知って欲しくなかった。 「ねえ、陽一君って智君がどの第二次性か知ってるの?」 「うん、教え合いっこしたからね」 「教え合いっこする程彼の事を信用しているの?」 「どうしたの? 先輩…… ちょっと変だよ? ちょっとギャップはあるけど、 彼は小さい時からの親友だよ。 再会してそれは凄く感じた。 離れていた時間が嘘の様だったよ。 離れていても、やっぱり彼はずっと僕の親友だったよ」 「そうか…… 学校でも強い味方が出来たんだね。 それは良い事だね」 そう言いながらも、 胸の奥はモヤモヤとしていた。 「先輩、ほんと変だよ?」 「大丈夫だよ。 ねえ、もしかして智君ってα……?」 恐らく99%正解だろう。 でも尋ねてみた。 「そうだよ! 先輩よく分かったね」 ほらね、やっぱりそうだ…… 「そうか…… そうなんだね…… ハハハ〜 ねえ、智君以外、αって学校にいるの?」 凄く気になった。 「う〜ん 噂ではクラスに2、3人は居るらしいよ? でも僕は興味ないから誰がどれかって分かんないな〜 Ωも居るらしいけど、僕にはどうでも良いし…… 智君もあまり他のΩには興味は無さそう…… 僕にはいつか結婚出来るなって冗談言ってたけど、 僕が赤ちゃん産めるってまだ信じられないよ。 まあ、かなちゃんも、 かなちゃんのお母さんも男で子ども産んだんだけどね!」 「え? 智君、陽一君と結婚するって言ってるの?」 「うん! おかしいよね。 2人してふざけ合ってるんだよ。 丁度αとΩだしね。 凄い偶然だねって。 2人で無人島に行っても大丈夫だねって。 そう考えたら面白いよね」 恐らく陽一君は何気なく学校の様子を語ってくれたんだろうけど、 僕には智君が引っかかった。 もし智君が本気で陽一君を嫁にしたいって思ってたら? 本気で番にしたいって思っていたら? 幼稚園の時の彼は明らかに 陽一君の事が好きだった。 子供だったし、男の子同士だったから気にも留めてなかったけど、 今の状況では話が違う。 今では陽一君は男の子だと分かっているけど、 Ωと言うことさえも知ってしまった。 つまり、番になれるのだ。 この偶然の再会を智君は一体どう思ったのだろう? 運命とさえ思って無いだろうか? そう思うと、焦った様な、 なんとも言えない気持ちがして来た。 これから陽一君はどんどん広い世界へ出て行く。 両手では数え切れないくらいのα達と出会うだろう。 そう思うと怖くなった。 小さい時から大切に、大切に育てて来た陽一君が 僕の知らない誰かに攫われてしまう? いや、僕が育てたわけじゃないけど、 ずっと、ずっと僕なりに彼の事は大切にして来た。 誰かに取られる為に大切にして来たわけじゃない。 これが娘を嫁にやる父親の気持ちなんだろうか? いやだ、陽一君を無くすなんていやだ! 「先輩? どうしたの? 大丈夫? 智ちゃんと再会したって所から静まり返って…… 先輩にとっても懐かしいでしょう? 思い出してた?」 陽一君にそういわれ、 今自分が抱いた感情に恐怖を覚えた。 まさか…… まさか…… でもそれを打ち消す様に、陽一君が、 「今日来てた人って、先輩の恋人候補なんですか?」 と尋ねて来た。 「え?」 僕の心臓は陽一君にも 聞こえるんじゃないかと言うくらい跳ね返っていた。 「今日先輩のところに来た女性ですよ。 彼女、Ωですよね? 先輩の番候補なのかなって思って」 「あ…… 詩織さん? そうだね、そうなるのかな?」 僕はとにかく、この感情から逃れたかった。 ダメだ、気付いたらダメだ。 早く蓋をしなくては…… 頭の中で何かが警鐘を鳴らした。 そして気付いたら陽一君の質問にそう答えていた。 「そっか……」 陽一君はポツリとそう言った。 心の中では違う、違うんだ! と叫んでいたけど、 僕はその心を言葉にする事ができなかった。

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