26 / 101

第26話 智君との再会

「先輩は何を買う予定だったの?」 陽一君の問いかけで、 僕たちは既にコンビニまで来ていた事に気付いた。 僕の感情は今にも爆発しそうなくらい 何かを言いたそうにしているのに、 陽一君の方を見ると、 彼は何事も無かったかの様に “?” とした様な顔をして僕を見上げていた。 その顔に少し安堵して、 「取り敢えず中に入ろう」 そう言って中へ入ったら、 運よくと言うか、 新発売のお菓子のパネルが目に留まった。 「あ、新発売のお菓子」 僕が指を刺すと、 「かなちゃんが好きそうだよね」 陽一君が束さずそう言った。 流石要君の息子。 要君のお事を良く知っている。 「じゃあ僕は要君にこれ買おうかな」 そう言うと、 「先輩ってかなちゃんの事、 良く分かってるんですね」 と陽一君が僕をジーッと見て言った。 少しドキッとしたけど、 「そりゃあ、長い付き合いだし、 高校生の頃はこれが僕たちのライフだったからね〜 でも、陽一君も要君の事、良く分かってるじゃない!」 そう言うと、陽一君は 「あ〜あ、なんで僕はその時居なかったんだろう」 とぼそりと言った。 そして僕を見て、 「ねえ、先輩って僕の好きな物って知ってる?」 そう尋ねて来た。 「そうだね〜」 と言ったものの、 僕は陽一君の好きなお菓子なんて知らない。 割かし、何でも同じように小さい時から食べていた。 だから特別に好きな物があったかは記憶にない。 暫く考えていると、 「ハハハ、いいんだよ、先輩。 僕、特別好きなお菓子って別にないし! かなちゃんの好きなの買って帰ろ〜」 と別に特別に好きなお菓子は無さそうに答えた。 「あ、僕がそのお菓子買うよ」 そう言うと、 「先輩は何を買いに来たの?」 そう陽一君に尋ねられ困った。 別に欲しい物なんて無い。 衝動的に駆られて陽一君を連れ出したかっただけだ。 ただコンビニが自然で尋ねるのに易かったと言うだけだ。 手ぶらで出ても陽一君は変に思うだろうから、 とりあえず僕用にコンビニケーキを買った。 僕も甘いものが好きな事には変わりない。 陽一君もそれは知っているはずだ。 でも陽一君は少し変に思ったのか、 少し疑いの眼差しで僕を見上げた。 でもそれは直ぐに笑顔に変わったので、ホッとした。 コンビニを出て、 もう少し陽一君と歩きたかったので、 「陽一君、ちょっとそこまで散歩……」 と言いかけた所で、 「あれ〜 陽一?」 と後ろから声をかけて来た人がいた。 後ろを振り返ると、 爽やかそうな少年が自転車に乗って近づいて来た。 「あ、智君!」 陽一君が少年をそう呼んだのでびっくりした。 「え? 智君って……」 「先輩、智君だよ。 さっき話してたじゃない! 幼稚園で一緒だったって言う、 あの智君だよ!」 「あ! 智君! 凄い偶然だね! 僕の事覚えていてくれてるかな?」 そう尋ねると、束さず陽一君が。 「智君、先輩の事覚えてる? ほら、幼稚園の時良く迎えに来てくれてたかなちゃんの先輩の!」 と説明してくれた。 「あ〜! 矢野のお兄さん! お久しぶりです!」 そう言って笑った智君は、 どこからどう見ても爽やかに成長した好少年だった。 子供は8年も会わないと変わる。 面影は残っているかもしれないけど、 此処まで爽やかに育つとは…… それに背も高くなって…… 僕とそれほど変わらないかも…… それに何と言っても若い! 陽一君と同じ年だし、 肌なんて男の子なのに、まだツルツルしている。 体格も年の割には良いし、 スポーツも、勉強も出来そうだ。 それに、一緒に居る陽一君が楽しそうだ…… これは負けたかもしれない…… 訳の分からない危機感を覚え、 ん?っと思った。 「陽一は買い物?」 「うん、ちょっとコンビニまで。 かなちゃんの好きそうな新発売のお菓子!」 「ハハハ、そうだったな、お前のお袋、 新発売のお菓子に目が無っかたよな」 と記憶力も良さそうだ。 「お前は買ってないのか? あんなにプリン……」 と智君が言った所で陽一君がそれを遮る様に、 「あ〜、智君は此処で何してるの?」 と横槍を入れた。 え? プリン? 陽一君ってプリンが好きなの? だって…… 僕には特別に好きな物はないって…… 答えられなかった僕に気を使ったのだろうか? そんな事を考えていたら、 「先輩ちょっとまってて、 智君ともう一回コンビニ行ってくるから」 そう言って陽一君は僕を残したまま 智君とまたコンビニへと入って行った。 僕はドアから少し離れて、 パーキングの所から中にいる二人を観察していた。 陽一君が智君を幼馴染で親友と言うだけあって、 すごく仲が良さそうだ。 同じ商品を手にとっては何か言い合っている。 かと思えば、デザートを手に取って匂いを嗅ぎ合っている。 智君が笑うと陽一君も笑う。 陽一君が商品を渡すと、智君が受け取る。 そして智君が陽一君の耳元で何かを囁く。 そうすると陽一君が智君を押して、 二人してまた笑っている。 やっぱり同じ歳だけあって、 二人でいると凄く自然に見える。 僕と一緒にいる時は、 良くて親戚の叔父さんぐらいだろう。 そう思うと何だか悲しくなった。 そして二人から目を背けた。 空は満天の星で、 要君と阿蘇に行った時を思い出して 何だか胸が苦しくなった。 「先輩、終わったよ!」 そう言って陽一君と智君が出てくると、 ハッとして二人を見た。 「お前、矢野のお兄さんの事、 未だに先輩って呼んでたんだな」 と智君が笑いながら陽一君に言っていた。 「そうだね、これ、一生治らないかも?! かなちゃんだって未だにお父さんの事、 佐々木先輩って呼ぶんだよ」 「そう言えば俺ってお前の親父に会ったこと無いかも?」 「そうだったっけ? 今度うちに来る? きっとかなちゃんも智君に会いたいと思うよ」 「そいだな、近いうちに…… 夏休みに入ってインハイ終われば時間あるかも」 「じゃあ、その時は絶対に来てよね。 週末だとお父さんも家に居るから!」 「おう! じゃあ、俺こっちだからまた明日な! 矢野のお兄さんもお休みなさい!」 そう言って智君は、 シャカシャカシャカと勢いよく自転車を漕いで行ってしまった。 「智君変わって無いでしょう? 小さい時のまんまだよね」 「そうだね」 そう言いながらも、頭の中は沸騰しそうだった。 「ねえ、それ……」 僕は陽一君が新しく下げて来た袋を見下ろした。 「あ~ これ智君が彼のお菓子を買うついでにって僕にくれたんだ」 「そうだったんだ…… 欲しいものがあったら僕が買ってあげたのに……」 そう言いて覗き込んだ袋の中身はプリンだった。 僕は今すぐその袋を奪い取ってゴミ捨てに投げ入れたかった。 そして僕が新しい物を買ってあげたかった。 僕は明らかに嫉妬している。 ポット出てきた智君に嫉妬している。 僕はこの感情を知っている。 高校生の時以来感じた事は無かったけど、 今ハッキリと思い出した。 これは裕也といる要君を見た時と同じ感情だ。 僕は歯を食いしばりながら、 “彼は13歳、彼は13歳。 自分は33歳、自分は33歳。 これはあり得ない感情だ。 忘れろ! 今すぐ忘れろ!” そう自分に言い聞かせていた。

ともだちにシェアしよう!