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第27話 子供の成長

“ピンポーン” 朝早くちょうど、 トーストが焼けた所にインターホンが鳴った。 手にしたバターを皿に戻し、 指に付いたパン屑を払いながら玄関まで行った。 こんな朝早く、インターホンを鳴らす人は 覗き穴から確認しなくても、 大体誰か決まっている。 それでも除いて見ると、 僕がドアのところに来たのが分かったのか、 陽一君が手を振りながらニコニコとしてこっちを見ていた。 “やっぱり陽一君だ” あのコンビニへの散歩から 暫く陽一君には会って居なかった。 最近は夜も遅く帰っていたし、 週末も何かと理由を付けては出かけていた。 陽一君に誘われても断っていたし、 約束していた金曜日のクッキングもドタキャンした。 だから早朝に突撃したのだろうか? でももう断る理由が尽きてしまった。 こんなハッキリしない僕のことを怒ってはいないのだろうか? 陽一君は恐らく僕が避けていた事に気付いている。 それでもこうやって諦めずに 変わらず僕を訪ねて来てくれる事は凄くうれしかった。 嬉しかったけど、自分の気持ちを考えると気は重かった。 でもこんな朝早くから居留守を使うわけにはいかない。 それに僕がまだ家を出ていない事は気付かれている。 僕は一つ深呼吸をして玄関のドアを開けた。 少し憂鬱だったけど、1番に目に飛び込んだのは、 いつもと変わらない陽一君の笑顔だった。 それが僕の憂鬱を払いのけた。 「先輩見て! 夏の制服になったんだよ!」 陽一君は夏の制服に変わった姿を ただ僕にみせたかっただけだった。 いつもと変わらない陽一君の態度に安堵はしたものの、 少し気不味かった。 でも会話しない訳にはいかない。 「良いね。凄く似合うよ。 涼しげでちょっと大人っぽくなったかな」 中学生になってまだ数ヶ月なのに、 夏服に変わり、少し短く鳴った髪は、 陽一君を少し大人っぽく見せた。 半袖のシャツから覗く腕はスラッとしていて長い。 いつの間にこんなに成長したのだろう…… 最近の子供は成長が早いのかもしれない。 高校の入学式で初めて言葉を交わした要君と そう変わらないくらいの見栄えだ。 陽一君はきっと要君よりも背が高くなるかもしれない。 それに顔も少しシュッとして来たかもしれない。 ずっと可愛いまま止まりだった要君とは違って、 陽一君には裕也の要素が少し出始めている様な気もするが、 どちらかと言うと要君のお母さんに体格は似ているのかもしれない。 そう言う風に成長した陽一君が 僕をいとも簡単に高校生の時の気分に戻してしまう。 気分は16歳の心を持った33歳だ。 陽一君の成長を目を細めて見ていると、 「これからお祖父ちゃんと、 お祖母ちゃんの所にもみせにいってくるんだ! お祖父ちゃんちゃんが昨夜から 見せにこい〜って煩くってね! だからちょっと早めに出るんだ。 先輩に一番に見せたかったから 早めに出てきて良かったよ! じゃあ、またね先輩!」 そう言って陽一君はドアを開けた。 僕は慌てて、 「待って陽一君!」 と、咄嗟に彼の腕を掴んだ。 確かに腕も少し逞しくなってる。 でも要君と同じ様に色白な陽一君の腕は、 強く握った僕の手の跡がうっすらと赤くついてしまった。 「どうしたの先輩?」 そう言って僕を見上げる陽一君に、 「あの……お祖父ちゃん達の所まで送ろうか?」 と、咄嗟に言ってしまった。 あれだけ避けていたのに、 本当は陽一君と離れがたかった。 でも陽一君はニッコリと笑って、 「大丈夫だよ! お父さんがお祖父ちゃんちの方面で、 朝早い面会が有るってだから乗せてってくれるって。 学校へはお祖母ちゃんがリハーサル行く時に送ってくれるって! 久しぶりにお祖父ちゃんや、 お祖母ちゃんと一緒に朝食をとるんだ! じゃあ、又ね、先輩!」 そう言って陽一君はドアを閉めると駆け出して行った。 陽一君のバタバタと走っていく足音が聞こえなくなる迄、 僕は玄関に佇んでそれを聞いていた。 陽一君の足音が聞こえなくなると、 “そうだ、僕も今日はミーティングがあるんだった” と思い出し、頭をスッキリさせるためにシャワーへと向かった。 「先輩!おはようございます!」 要君がニコニコとしながらオフィスにやって来た。 要君は今日も元気だ。 今日は要君の所属するスタジオのスタッフとの ミーティングが行われることになっている。 「あ、お早う。 今日はよろしくね」 「朝は早くから陽ちゃんがお邪魔しちゃってすみません。 どうしても先輩に一番に夏服を見せたかったらしくて……」 「学校はもう夏服に変わったんだね。 子供の成長は早いね〜 少し見ない間にちょっと大人っぽくなってて見違えたよ!」 そうしみじみと言うと、 「ですよね、陽ちゃんまだ13歳なのに僕と同じ様な身長なんですよ。 変声期にも入りそうな感じだし…… 僕が13歳の時は背も、もっと低かったし、 声何て高かったですからね~ 変声期来てちょっとハスキーがかったけど、 陽ちゃんもそうなるのかな? 僕と声の質が似てるって言われるし…… それを見ると、陽ちゃん、発情期も僕より早いのかな〜」 要君のその言葉に少しドキリとした。 「は〜、僕達も年取るはずだよね。 最近は若者が眩しいよ!」 僕がそう言うと要君は 「先輩ってどんどんジジ臭くなって来てますね〜 早く運命が見つかると良いですね! もう目の前に居るかもしれませんよ。 見落とさない様に、ちゃんと目を開いていてくださいね~ 生活に活気が出ますよ!」 とからかった様にして笑って言った。 まさか33歳の正しくジジ臭いと言い放ったオッサンが、 13歳の自分の息子に懸想してるとは夢にも思っていないだろう。 この気持ちは絶対に隠し通さなくては…… そう思うと訳の分からない孤独感に苛まれた。 僕はまた陽一君が横から攫われていくのを 目の当たりにしてしまうんだろうか? 智君の存在は思いがけなかった。 でもこれからは、智君がきっと陽一君を守ってくれる。 陽一君だって、いつかこんな叔父さんよりも、 同じ年頃の友達と一緒に居る方が楽しくなるに決まっている。 僕の出番はどんどん無くなってしまうのかな…… 本物のナイトになりたかったけど、 それはもう無理なのかもしれない…… 子供は成長していつか巣から去ってしまう。 陽一君にもそんな日はやって来るだろう。 そうなれば僕の思いはどこへ行くんだろう? 要君の時の経験から、 僕は好きになった人を忘れるのに かなりの時間を費やしてしまう。 多分簡単に他に好きな人はできないだろう。 それも要君の時で経験してしまった。 きっと陽一君に発情期が来れば 僕のこの思いにもピリオドが打てるのだろうか? そう思うと、自分は一生誰かの1番には、 なれない様な気がしてしきた。 何故僕はいつも番の居る人を好きになるんだろう? もう僕には一生、番は見つからないんだろうか? 親子二世代に渡って不毛な恋をしてる僕って…… そう思うと自分が可笑しくて堪らなかった。 また13歳と言う年端も行かない子供に 恋心を抱くことさえ犯罪の様な気がして そんな自分は一生救われないなとも思った。 「ねえ、先輩?」 要君がそ~っと僕の方へ近ずいてきた。 そしてボソボソと耳元で囁いた。 「先輩最近、陽ちゃんの事避けてませんでしたか?」 「え? 何故そう思ったの?」 「陽ちゃんが先輩が捕まらないってボヤいてましたよ?」 「まあ…… 最近は忙しかったからね。 悪かったね。 今度からは気を付けるようにするよ」 「お願いしますね。 陽ちゃん、先輩に会えないと機嫌悪いから、 ちゃんとフォローしてあげて下さいね」 「あ、でも、智ちゃんが再出現したんでしょう? 陽一君、凄い喜んでその事話してたよ? 第二次性も教え合うほど仲が良いって…… この前だってコンビニで……」 僕がそう言うと、 「先輩、負けないでね!」 と要君はそう言い残してミーティングに行ってしまった。 僕はその意味が分からず、少し困惑した様にして、 ミーティングに去っていく要君の後姿を見ていた。

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