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第59話 あれから

「どうしたの陽ちゃん? らしく無いね。 最近矢野先輩の事、避けてるでしょう?」 僕はかなちゃんに指摘され、 もう少しでご飯を喉に詰まらせる所だった。 「いきなりだね? なぜ今頃?」 「別に今に思った事じゃ無いよ。 もうずっと先輩の参加する家族行事に参加して無いでしょう?」 「何? 先輩に何か言われたの?」 僕がそう尋ねると、 かなちゃんは黙り込んだ。 「陽一! お前、余り要をいじめるんじゃ無い! 浩二と何かあったのか?」 久しぶりに夕食の時間に家にいるお父さんに睨まれながら 僕はつっけんどんに返事を返していた。 「お父さんにもかなちゃんにも関係のない事だから心配しないで! とりあえずは先輩の会話は無しでお願いします」 「何だ? 遅くに来た反抗期か?」 お父さんがそう言うくらい僕は良い子だった。 そして今は反抗していた。 最近は少し不安定なところがある事は認めるけど、 僕自身どうしようも無かった。 やっぱり僕は何か精神的か肉体的に問題があるのだろうか? それは僕の第二次生に対して明確に現れていた。 僕は両親を見上げると、 「ごちそうさま…… 明日は新学期だからもう準備して寝るね」 そう言うと寝室へと足を運んだ。 「陽一~! おはよう! 結構早かったな!」 「……」 「陽一!」 「……」 「陽一?」 智君に肩をガシッと掴まれて、 ようやく智君が僕の隣に並んで立っていることに気付いた。 「あっ、智君! おはよう!」 「空を見上げてどうしたんだ?」 「ん? ほら…… 桜の花びらが……」 そう言って僕は智君の肩に舞い落ちた花びらをつまんで 智君の目の前に差し出した。 時は春になっていた。 「そういえばさ、 陽一の祖父母の家から河川敷に続く道にも桜並木が続いてるよな? 小さいころ一緒に花見した事あったよな?」 「あ~ そうだね。 公園の先にあるやつだね? かなちゃんとお父さんが出会った高校がその先にあるんだよね」 「そうだよな。 お前の祖父母だってそこの高校を出たんだろ? 陽一、そこに行かなかったから、 皆びっくりしていたよな? どう? 今年はもう花見はすんだのか? 毎年矢野さん、やって来てたんだろ?」 「……」 「どうした? 未だ引きずってるのか?」 僕は智君にも矢野先輩への気持ちについて打ち明けた、 というよりは、話さなくてはいけないような状況に陥った。 「いや、そう言う分けじゃないけど…… ちょっと思い出したことがあって……」 「ん? 思い出した事って?」 「いや、大した事ないよ! それよりも智君、今年は一緒のクラスだね! 凄く楽しみ〜 勉強は大変だけど、今年は修学旅行もあるし、 楽しい年になりそうだね!」 「陽一〜 お前余裕だな〜 俺達未だ2年生だけど、皆受験で熱り立ってるぞ。 お前くらいなもんじゃないのか? そこまでワクワクしてるのって!」 「だって学生時代なんて二度と戻って来ないんだから、 楽しまなきゃ損だよ! 修学旅行なんて沖縄だよ? もう、楽しみ以外の何があるっていうの? 国内なのに、行ったことないからな~ どういう感じの所なのか、いまからドキドキ・ワクワクだよ!」 「ハハハ、やっぱそう言うところは陽一だな。 俺は沖縄は何度か行ったことあるから、 観光は任せてくれよ! そう言えば葵って今年受験だよな? どこ受けるか知ってるのか?」 「木村君? 都内って言ってたよ? 大我君の側を離れたくないみたいだね。 最近はスタジオにも出入りして顔見知りも増えてるしね。 そう言えば、木村君もほら、凄い綺麗な顔してるじゃない? モデルにスカウトされたらしいよ。 でも大我君が大反対したから大我君の言うとおりにしてるみたいだよ。 もったいないよね。 でも、大我君、亭主関白になっちゃいそうだよね。 クスクス」 そう言って僕は笑った。 確かに二人を見ていると、結構面白い場面にかち合う時がある。 「まあ、運命の番だったら側を離れたくないよな。 それにしても、大我も凄い変わったよな〜 今では葵の方が年下に見えるしな。 大我のモデル業も上手くいってるし、 葵との関係もまずまずだし、 あの2人はマイペースで見てるこっちがおっとりとしてくるよな」 智君と木村君もすっかり仲良くなって、 智君は木村君より年下なのに葵と名前呼びするまでになっていた。 大我君とも交流を持ったし、 僕たちの友情関係はさらに確かなものになっていた。 肝心の木村君だが、 今では大我君も薄々と木村君が運命の番だと気付き始めた様で、 2人の距離は最近になってグッと近くなった。 木村君は相変わらずのオットリ屋さんで、 大我君が木村君に合わせてゆっくりと出来る空間を作ってくれて居る。 確かに智君が言う様に、 二人を見てると縁側に腰かけて日向ぼっこしたい気分になる。 「ハハハ、そうだね、何だか歳をとった茶飲み友達化してる所はあるよね」 そう言うと、僕は智君の方を見て、 「で? 智君の方はどうなったの?」 と尋ねた。 僕がΩだと分かって、 以前智君には凄くアプローチされた。 智君には、僕がΩでなくても幼稚舎にいる時からずっと好きだったと告白された。 でも、どんなに智君がアプローチしても、僕が智君になびくことはなかった。 智君も幼いながらも、僕と矢野先輩の事を何か感じていたらしい。 いまでも幼かった時のように矢野先輩によりそう僕を見て、 やっと僕には矢野先輩しかいないと言う事を理解してくれた。 そして智君はそんな僕とも変わらずに付き合ってくれて、 僕は凄く感謝している。 きっと簡単ではなかっただろうけど、 そんな智君にも今では可愛い恋人がいる。 同じαのクラスメイトだ。 彼女は僕にもとても良くしてくれて、 智君と一緒に僕の相談相手となってくれる。 見ていて凄く羨ましい。 智君も、木村君もちゃんと相手を見つけてリア充を満喫してる。 なのに僕は…… あの日の決意から、既に4年の月日が経ち、 僕は17歳の高校2年生になっていた。 あの頃とは見た目も変わり、 身長も伸びてどちらかと言うと、 お父さんが綺麗になったような顔と言われるようになっていた。 高校は両親や祖父母が通った高校とは違い、 僕は超進学校の高校へと進んだ。 中学一年生の時は、余り勉強は出来なかったけど、 智君の助けを得て、 死に物狂いで頑張って成績を上げた。 周りは殆どαばかりと言う高校だった。 第二次生の差別ではないけど、 やはりαは抜きん出て優秀な人が多い。 僕を知らない人が見ると、 きっと僕もαの様に人の目には映っただろう。 あの4年前のクリスマスの後から、 僕は矢野先輩との交流をやめた。 同じところに住んでいるし、 両親の親友と言う事もあるので、 完全に交流を断つことはできなかったけど、 少なくとも、一緒に何かをすると言う事はしなくなった。 僕は先輩に近すぎた。 きっと、僕がどんなに繕っても、 先輩は僕の事を親友の息子としか見てくれない。 これは大きな賭けだった。 先輩から離れてこれ迄の関係を崩してしまおう。 そして僕に発情期が訪れた時、 もう一度先輩の前に現れて僕を意識してもらおう。 それなのに…… 高校2年生になって17歳にもなったのに、 僕にはまだ発情期が訪れていなかった。

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