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「ほんっとうに、申し訳ございませんでした……!!」
朝早くから俺の前で綺麗な土下座を披露しているのは、昨夜俺に散々無体を働いた(というほどのことでもないが)少年その人である。
昨日とは違い、言葉もはっきり話すし目にも生気が宿っている。顔は同じだが、振る舞いはまるで別人だ。
あの後、倒れた少年をそのまま床に転がしておく訳にもいかず、半分放心状態でなんとか身なりを整えた俺は、彼を再度自分の煎餅布団へと運んだ。それからはもう、何もする気になれず、俺も予備の毛布を引っ張り出して、座布団を枕に床で寝た。おかげで体は痛いし疲れも抜けていない。なんとも最悪な朝である。
「……昨日のことは、覚えてるんだな?」
「はい……。途切れ途切れ、ですけれど……」
――シャットダウン中の記憶は保持されないもので……。
まるで自身が機械か何かであるかのような言い回しに、引っかかりを覚える。
「単刀直入に聞く。……お前は、何者なんだ?」
「……もう、薄々お察しのこととは思いますが、ぼくは人間ではありません。……アンドロイド、なんです」
中でも、自分は性的行為に特化した、所謂「セクサロイド」なのだと、少年は言った。なるほど、それならば昨夜の巧みな舌使いにも説明が……って違う違う!
「そんな……漫画みたいな話が……」
「でも、実際に現物がここに居ますよ」
そう言われても、俄には信じ難い。だが、その話を受け入れてしまえば、合点がいく事象があまりにも多かった。過剰に整った容姿だとか、発見時には確かに呼吸をしていなかったはずなのに、今こうして普通に動いていることとか。
「……百歩譲って、お前の話を信用したとして……お前は、どうしてあんな所に居たんだ?」
疑問はそれだけではない。そもそもそんな都市伝説染みた存在なら、ひとりでふらふらと街中をほっつき歩くことが許されるものだろうか。しかも、エネルギー切れで倒れるまで。
「それは……」
言い淀む少年を前に、考える。もしも彼に「持ち主」と言えるような人間が居るのなら。本来の居場所と言うべき所があるのなら。そこに戻すのが正当だろう。
何らかの理由により、そこから逃げ出してきたという可能性を、俺は意図的に見ない振りをした。
「何にせよ、お前を警察に届けるのが、一番いい方法だろうな」
「そっ、それはダメです! お願いします、それだけは……!」
途端に蒼白になった少年が言い募る。機械だというのに、随分と表情が豊かなのだな、と、俺は他人事のように未知の技術に内心で感嘆する。
「なんでもしますから、ぼくをここに置いてください!」
「断る」
「そこをなんとか!!」
大人しそうな顔して、こいつなかなかしつこいな……。
秒で申し出を却下した俺の態度にもめげず、尚も少年は食い下がる。
こいつにはこいつの事情があるように、俺にも俺の事情がある。面倒事を抱え込むのはごめんだ。俺は、自分のことだけで手一杯だし、他人の息遣いを感じる暮らしなんて、したくない。アンドロイドだとかセクサロイドだとか、そんなのは関係ない。
「嫌だ。絶対に」
「でも……!」
「あー、くそ! もうこんな時間じゃねえか! 悪いがお前と問答してる時間は無い。仕事に遅れる」
――誰かさんのせいで疲れも取れてないし、腹も減ってる!
捨て台詞のように少年にぶつけた言葉は八つ当たりに等しく、俺はそのせいでますます苛つく。今にも泣き出しそうな表情をしている彼の顔をこれ以上見ていたくなくて、わざと慌ただしげに出勤の用意を進める。朝食は道中のコンビニでおにぎりでも買おう。
「……あ、あのっ」
「……俺が帰るまでにこの部屋を出てくれ。鍵はポストに入れてくれていい」
少年の顔は見ないよう、俺は鍵を後ろに放ると、逃げるように部屋を飛び出した。
わかっている。最後まで責任を持てる訳でもないのに、安易に手を伸べた俺が一番悪いのだと。でも、あんなの、手に負える訳がない!
そうして俺は、最悪な気分のまま職場の最寄り駅へと向かう電車に乗り込んだのだった。
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