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ミルキーすぐに苦み

 絶対に専用のグラスではなかった。猪口にカフェオレを注いで、その後にホイップクリームを乗せている。 「あ〜ッ!」  彼はカフェオレを飲めただろうか。いつもはココアで、コーヒーを飲む俺の前に座ってくる。可愛い。  リアクションの大きな彼は何かを失敗したのだろう。 「何をしているんだ」 「こぼしちゃった!ヤバっ!」  掻き回していたカフェオレの入ったマグを彼は置いた。焦った水道の音、布巾から滝。俺も混ざりたくなる。なんだか焦らしプレイで、見る余裕があるのは俺のほうでも、彼からの視姦プレイ。 「できたよ、できたよ、自信作!」  慌ただしい。彼と並ぶ日々は。  目の前に出されたのは、猪口に不釣り合いなホイップクリーム。下にカフェオレが入っているはずだ。手を伸ばす。 「ダメダメダメ!」  リアクションの大きな彼は俺が何かまずい失敗をする前に止めてくれる。 「それ、手、使わないで飲むんだって」  伝聞形が気になってしまう。誰から聞いた?このご時世、ネットで何でも手に入る。 「犬食いするのか?」  犬は君だ。誰にでも尻尾を振って、なのに噛み付いて、引き時を知っていて。 「なんか、飲み口のとこ咥えて天井向くんだって」  また伝聞形。やめてくれ。誰から聞いた? 「行儀が悪い」  分かっているが、彼のリクエストなら完璧に。器に顔を近付けてみる。唇にクリームが触れる。彼に見られている。俺を見ている彼を、俺も観ていたい。猪口の飲み口に歯を立てる。 「やっぱ待って!」  彼は顔を赤くする。俺だって恥ずかしい。俺ばかり好きで。 「アイツ、手使わないで飲むってホントに言ってたんだよ!あれ?おかしいな……」  誰から聞いた?訊けるわけがない。彼は散々掻き回したスプーンを俺にくれる。溺れそうだった俺に。 「アイツに教えてもらったんだ!ホントはお酒入れんだって。オレはコーヒー飲めないからココアにしてもらった!飲めなかったけど!」  唇にはクリーム。味はただただ苦く、喉元は息苦しい。 * * * 元ネタはディープスロートとかブロージョブとかいうカクテル 2020.12.25

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