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見透かされジェリーフィッシュ
彼は鈍い。というか頭が悪い。それで、アイツもバカ。自分のデートにカノジョだけでなく、彼も連れて行くんだから。
クラゲのシールは繊細だった。青い線に透明な、フィルムみたいなシールだ。それが他人のカップルに同行した先での土産。海は特別近くなかったが、小規模な洒落た水族館。完全にデートスポット。
俺が呆れていることも知らずに、彼はにこにこしている。アイツとそのカノジョと居ながら、彼が俺を思い浮かべたことが本当は嬉しくてたまらないのに、俺は素直に認めたくなかった。
「この足のところ、ぶちって切れそうだから気を付けろよな!」
クラゲの触手を指して彼はまた人懐こく笑っている。どうして俺にクラゲなのだろう。大雑把な彼は俺を几帳面なやつ扱いして、だからこんな繊細な土産を買ったのか。何となく彼らしくないチョイスは、俺のことを考えてくれている。
「なんか手帳つけてたろ!あれに貼れよ!ははは!」
そのスケジュール帳こそ、彼が俺を几帳面扱いする理由のひとつだった。開けたドアは閉めるだとか、トイレに行ったら手を洗うだとか、脱いだ上履きを揃えておくだとか、他にも色々あるけれど。
「大切に使う。ありがとう」
アイツとそのカノジョと居ながら、俺のことを考えて、土産を、選んでくれたのだ。大切に使う?嘘を吐け。使えるはずがない。真っ赤になった顔を見られたくなかった。冷えた廊下に逃げ込んだ。アイツが待ち構えている。
「諦めろよ。あいつ、オレに惚れてんだから」
彼はきっと自覚していない。コイツはそこに付け込んで遊んでいる。カノジョまで巻き込んで。
「カノジョも兄弟みたいでカワイイってよ。3人仲良くやっていけそうだわ〜」
肩を叩かれすれ違う。耳元で、何か囁かれる。
……土産、良かったろ?
俺は鈍い。頭も悪い。性格も、要領も、何もかも。
* * *
ワンチャン、アイツ→俺→彼。攻百合。
2020.12.27
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