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ビールから始まるmyビーえル
※ビール飲み師は注意
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乾杯の音頭。ノる気を見せる。
拙 い。そしてこれは非常に不味い。匂いがまず、人の飲む物として成り立っていない。色もだ。着色料を使ってもいいからあの色はやめて欲しい。何かしら不健康な何かを連想してしまう。それからあの泡も、風呂にシャンプーを流し込んでしまった失態を思い出す。何より味だ。甘くもなければしょっぱくもない。はっきりしないくせに苦さだけが作用する。舌が痺れて、いつも飲み切れない。姪の誕生日があるからと断ればよかった。何回姪は誕生日を迎えるんだ?いいや、俺には何人姪がいるんだ。
嫌いな物は早いうちに。頑張って、塩辛と枝豆で一杯切り抜けたのに、作戦は失敗だった。俺のジョッキの上にはビール瓶が倒れている。やたらと気の利く事務の子だ。女だからと圧を掛けられているのだろう。いいんだよ、君も楽しんだら。楽しめるわけない、雑用係として呼ばれて、楽しんだら後からねちねち言われるのだろうし。主にこの場合はお局さんから。自分たちが嫌だったなら、若い子にも優しくしてやれよ、なんて思ってしまう。それか、俺が雑用になるからこの液体を飲んで欲しい。俺も他人の心配なんてしていられなくて、ビールがダメなんて知れたら色々マズイ。酒飲めないやつは信用できないなんて、とんだ人間不信だ。もっとカルーアミルクとか、梅酒のソーダ割りとか、ストロングメロンサイダーとかあっただろう。
顔ばかり熱くなって、2杯目を睨む。もう無理だ。飲みたくない。
ひょいと横から手が伸びて、空のジョッキを渡される。
「ぱいせん、ビール嫌いっしょ」
後輩の、今風に言うと「ヨウキャ」だ。仕事はそこそこ熱心で、ドジはドジだけれど元気で、教えたことはすぐにできるし、できなければ努力する、なかなかいい子。6つ下だった気がする。
「いつも甘いの頼んでるもんね?」
少し恥ずかしい。見られていた。いつも部下と飲む時、ビール頼まないから。
「べ、別に嫌いじゃない」
「顔真っ赤〜」
彼は俺のジョッキに口を付けた。飲み干して、今度は違う子のジョッキに手を付ける。日に焼けた喉が小さく動く。そしてたこわさを突つく。箸の持ち方変だ。寄せ箸をするな。たこだけ食うな。
彼が俺に気付いて笑った。
酔いが回っている。すぐに覚めるはずなのだ。
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下戸超絶美青年スパダリ上司(28)×奔放ワンコ部下(22) 想定
2021.2.2
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