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monogatary.comから転載 お題「口説き下手と聞き上手」 ***  男は女を好きになり、女は男を好きになる。それが"絶対(ふつう)" だと思っていたし、大きくなって世情が変わってきた今でもこれが多数派であることは間違いなくて、日頃から自分は少数派だという実感のない俺もそうなるものだと思っていた。  そして異性を好むのなら、そこには当然の流れとして結婚があり、子を持つ未来があるのだと。漠然と。たとえ異性であろうと、その相手がどこの誰であるかはまったく考慮もせず。  確かに異性に対して目を奪われる場面は幾度かある。ただ持続したものではない。その閃きに似た感情は。  いいや、だからといって同性が好きなわけではない。つまり誰も好きではなかった。そういう分野に於いては。付き合いやすい人、話しやすい人、尊敬する人、そういうのはあるから、人嫌いというわけではない。 「―で、そう考えていたときに、おまえが現れた。どう思う?」 「話長くて前のほう忘れたケド、よーするに、オレは話しやすい人ってことか。嬉しいぜ!」  さっきから相槌は打ってくれていて、空返事でもなくて、吸い込まれそうな目をずっと俺に向けている。話を聞いていないわけではない。話が伝わらないのは、俺がこいつを見つめすぎているあまり、話が逸れているに違いない。 「それで、今まで人を好きになったことないケド、好きな人ができたってことだろ?」 「そうだ!要約するとそういうことになる。それでおまえの意見を聞きたい。どうすれば俺を好いてくれる?」 「いいぜ、いいぜ、相談のるぜ!まずは告白!これだろ。オマエ、かっこいいし、頭良いし、真摯な告白で相手はイチコロよ。保証する!」 「いいや、待て。相手は男なんだ。おまえは男を好きになった男についてどう思う?だからつまり、俺について……」 「え、分からん。男に好きになられたことないし。でも女の子にも好かれたことないんだよな。オレはふーんそうなんだって思った。どんな人なん?」 「天然で、スポーティで、色気よりは食い気なんだ。目玉焼きには醤油で、アイスもケーキも絶対にチョコ……ネコ派なのに、イヌみたいなやつで……きのこの森よりたけのこの村……寿司よりは焼肉らしい……」  なんだかあいつは首を傾げて、少し黙った。俺は俺を見つめる大きな目に吸い込まれていて、もう訳が分からない。 *** 2022.9.27

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