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残暑の人 ※
monogatary.comから転載
お題「あきすだれ」
※和パロ
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夏が過ぎて、もう秋だった。それでもまだ蒸し暑い。とはいえ昼にセミの声は無くなって、夜はスズムシの鳴き声に包まれてはいるけれど。
そういう季節がまたやってきた。
性分でも趣味でもないが、出掛けた帰りに男街娼を買った。街娼といっても、小さな頃から食うに困っていたのか、俺と同じ歳だというらしいのにその見た目は子供みたいだった。当然、学もない。だから外貌だけでなく雰囲氣からして小童みたいで、それが好き者たちには人気らしい。
気色悪い。けれど、買ってしまった以上は俺も同じ穴の貉だ。
犬でも飼って、愛でていればいいものを。
初めて男街娼を抱いて寝る。抱くといってもおかしな意味ではなくて文字どおり、抱き枕にして。この扱いは当人には不服だったらしく、散々文句を言われたが、相応の額は払っていて、何も身体を傷付けようとしているつもりではないし、腹が減っていたようだから飯も食わせた。服もくれた。
2人で食う飯が久々で、埃をかぶった茶碗や箸を洗う時、まだ秋に移ろうとしない暑さで滲む汗が目に沁みたものだ。
俺も随分疲れていたのか、昼間まで寝ていた。今までは寝られずに薬師を探し、寝薬を求めたが、結局は効かなかったのだ。
抱き枕代わりに買った身売りは俺の長い眠りに飽きて、いつのまにか俺の腕の中から逃げていた。俺の目が覚めたのはそれから少し経ってだろう。
彼がいないと分かった途端に冷や汗が吹き出した。だが、夏に垂らしたまま昼夜問わず巻き上げもしない簾の奥、縁側越しの庭に後姿がある。
編み目の狭間でちりちりと日差しに炙られる小柄な人影は、過ぎた夏の中に居るみたいだった。間違いなく、彼だ。
「戻ってきなさい」
俺は声をかけた。簾の奥でかぎろう人影がこちらを向く。
「なんだよ」
俺はぎょっとした。声は真後ろから聞こえた。何か食っている。どうせ置いておいた握飯だろう。
「起きないし勝手にメシ食ったケド、起こそうとしたんだぜ」
好きに食べればいい。腹減らしの扱いには慣れているんだ。
「お墓に供えるやつだった?昨日なんか線香と酒臭かったし」
そうだ、俺は昨日、酒を飲んで酔っ払って、この身売りを連れてきた。酒でも入れていなければこんな真似はしない。
「いいや。それより君はまたあそこへ帰るのか」
「うん。だってここじゃ仕事ないもん」
簾を振り返った。人影はもうなかった。
***
960字弱
2022.9.27
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