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メテオティック空騒ぎ ※

monogatary.comからの転載。 お題「スマート本」 ***  図書委員の仕事は暇だった。読書する奴等が少ないということもあれば、ほとんど自習室として使っている奴等のほうが多いということもあり、貸し出しがセルフ方式になったということもある。ただ俺は当番として、セルフ方式を使えなかったり、返却本の戻しをするために図書室に顔を出す。カウンターで返却本を適当に選んで読んでいた。  当番だからといっても、大概は無駄に終わる。空いた時間も読書に充てるような余程の本好きでもなければ、うちの学園で図書委員になるのはいわゆる"ハズレ"というやつだ。いいや、体罰を是とする顧問のいる体育委員よりは暇なのがちょうどいい。  静かな空間は嫌いではなくて、さすがに"ハズレ"は言い過ぎたかも知れない。利用者も本を借りて読んだり、自ら勉強をしに来るような奴等だから際立って素行が悪かったり、所構わず叫び散らかすような迂愚さもない―なんて、偏見か。  そこへ、図書室に隕石の如く飛び込んできたやつがいる。 「すまあとほん貸してくれよ」  カウンターへ直撃し、地球は寒冷現象によって…… 「なぁ、すまあとほんなくて困っててさ」  俺はそいつを知っていた。そいつは俺を知らないだろうが。隣のクラスのうるさいやつだ。お調子者というか、ピエロというか。素行不良みたいな身形をして、頭は悪いみたいだが特別不真面目で問題児という噂はきかない。  俺は不本意だがスマートフォンをカウンターに出した。校則に従って電源は消してある。没収は厄介だ。 「ちげぇよ、すまあとほんだよ。無いと困んだよ。すまあとほんで確認しろって……」  ぎゃおぎゃおと騒がれて、図書室に響いているのもこいつには分からないらしい。  ナントカとかいうアイドルにハマったらしく、そのライブの抽選を"すまあとほん"で確認するらしい。   「本当に本なのか?」 「間違いねえよ、すまあとほんって言ってたもん」  一応調べてはみるけれど、この図書室にそういう本は存在しない。そもそもライブの抽選なんてものを、この時代に紙媒体でやるか? 「ちなみに、あんたはこれ持ってないのか」  俺はスマートフォンをみせた。こいつはガラケーなのか、はたまたこの歳になっても携帯電話の類いを持っていないか。たまにそういう家庭があるから何とも言えないけれど。 「持ってるよ」 「それならそれで調べろ。ライブの抽選の確認なら、大体これだろ」  一体何で応募したんだこいつは。首を傾げて、まだ何か言いたそうだ。 「だってこれ、スマホじゃん」 *** 1000字強。 2022.9.28

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