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早食系男子と草冠 ※
monogatary.comからの転載。
お題「早弁」
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しょっぱい出汁巻き玉子、タコさんウィンナーに茹で玉子も花形に切って、チーズをカニカマやハムで巻いた花で引き立てる。からあげは冷凍食品が結局一番美味い。若干コレステロールが気になるが、あいつはよく動くし、実際今のところは肥っていない。全部筋肉にいっている。俺が育てているのはあいつの筋肉なのかもしれない。
三十路で肥りそうだ。完食されるのが嬉しすぎて、作りすぎ食べさせすぎの俺が悪い。人間でこれではペットを飼ってはいけないタイプの人間だ。
学部は違うが高校生から付き合っているあいつと同じキャンパスに通えることになった。食うのが好きなあいつと食わせるのが好きな俺。自分から見ても気持ち悪いかも知れない。フォトスタグラムに載せるから、なんていうのは後付けだ。家庭的な妻、関白亭主の共有アカウントだなんて設定で、一人二役。そんな奴等は居もしない。
早弁用と昼飯用、自分用の3食分を作って写真を撮る。ガーリーかつファンシーなのを1つと、色味にも形にもこだわらないのを2つ。あいつもバイト代から食費を出してくれるし、ルームシェアをしているから、早く起きた朝なんかは手伝ってもくれる。
大学であいつと俺が付き合っていることを知っているやつはいないから、明るく無邪気で人気者のあいつはファンシーな弁当をカノジョからのものだと噂されているらしい。"あいつのカノジョ"という観念に嫉妬したりなどして、しかしそれは俺で、俺だけが知っているのだという、俺に対する優越感を覚えたりなど。あいつは老若男女問わず人気はあるがモテはしない。素敵なことだ。
高校時代、教科書に隠れて弁当を食うこいつの横顔に惚れた。頬を膨らませてリスみたいだった。かき込む危うさと、少しいい加減な箸の持ち方が、他の奴だったら不愉快だったかも知れないのに。こんな奔放なやつがいるのか、という驚きは恋心に似ていて、やがて気になって気になって仕方がなくなった。つまり様々な意味で目が離せなくなった。その箸の持ち方の方が食べづらくないか?指は痛くないのか?そんなにかき込んで顎は外れないのか?喉に詰まるぞ、危ないぞ、と……
あいつといると俺は多弁になって、不安と心配で仕方がないのに、あいつは気にもせずするする躱していって、俺は夢中になって忙しい情緒のなか、早めに老けていく。でもそれも悪くない。胃袋を掴んでいるようで俺がしがみついている。
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990字弱
2022.10.5
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