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a芋ko芋 ※
monogatary.comからの転載。
お題「芋」
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彼はべとついた焼芋が好きで、俺は形の残っているものが好き。ポテトもそうだ。彼は油で濡れてしなしなになったやつが好きで、俺はかりかりとしたほうが好き。
帰り際に彼がスーパーの前に出ていた焼芋を食べたそうだったから俺が買った。彼は肉まん目当てで焼芋に移ろいかけて、それでも一途に肉まんを選ぶらしい。
「秋はマジで、腹が減っちゃってさ」
秋だけではなく彼は春夏秋冬、朝昼晩、四六時中、腹を空かせている。たくさん食べる姿を見ているのは好きだ。ネコやイヌやタヌキがモサッとするように、代謝はいいがある意味で燃費は悪い彼もほんのり頬に肉がつく。けれどまだマフラーとコートの時期ではないか。彼は暑がりだから。
晩秋から晩冬にかけての防寒具に包まれた姿は、俺が交際を求めた理由のひとつでもある。もちろん彼の同意は必要だけれども、触れるということだ。そして他の奴等に触らせずに済むということだ。
――いいや、人懐こいからな……
俺が彼に惚れたみたいに、男女問わず彼を魅力的に思う人間は少なくないんだろう。
無事目当ての肉まんを買って、先月までは金木犀が薫っていた公園に寄って、俺は焼芋を、彼は肉まんを食らった。半分こずつ。分け合うことに躊躇いのない相手。無限ではない時間も。季節なんかは、分け合うどころか倍になっている気がする。期間の長さではなくて、濃さが。
「なんかめっちゃ、欲張りなことしてるわ、オレ」
彼は唇を舐めて満足そうだった。
「どうして」
「だって一気に、秋を味わっちゃった。肉まんと、やきーも」
俺は彼から目を離せない。それなら俺は、もっと欲深いことをしている。肉まんと焼芋と好きな人と。
「でも半分だろう。もう一度やらないと、1回にならないから大丈夫だ」
というのは方便だ。また彼との実質的なデートを誤魔化しながら取り付けている。
「次はピザまんとかカレーまんかもな」
「俺は大福アイスにするか」
「え、冷てぇよ、それは」
「おまえならイケるさ」
――と話し合っていたはずなのに、彼はポテトを食べたがって、デートを果たす前にファストフード店に寄った。2人で頼んだポテトは紙ナプキンの上でひとつになって、しなしなかかりかりかなんて語り合う。満ち足りていく。腹も、愛も、恋も。
けれどまだまだ尽きないからな。俺の想いも勢いも。
***
940字弱。
2022.11.9
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