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【7000アクセス記念】懸想でもう溶けそう

 クリスマスの予定は決まったか、と彼が民家の照らすイルミネーションで輝きながら訊ね、俺は彼と過ごすの前提でいたから、少しだけ傷付いたのか驚いたのか分からない衝撃を受けた。 「まだ、決めていない」  仕返しに強がってみる。仕返しになっているのだろうか。 「よかった。じゃ、オレとあそぼ。渡したいものあるしさ」  クリスマス……プレゼントか?期待してもいいのだろうか。彼から何かもらえると……いいや、もし、彼の家に置いてある俺のものだったら?それはつまり何を意味する?俺にとって極めて不都合なことを言われたらどうするのだ。俺は彼を想って、彼の幸せだけを願って、潔く身を引けるだろうか?彼の幸せが俺の幸せだなんて建前だ!綺麗事だ!俺はなんてエゴイストなんだ! 「……ダメっぽい?おい。おいって。どした?」  目の前で彼の手袋がひらひらと動いた。 「予定、合いそうになかった?クリプレ用意したんだケド」  そういう会話を覚えている。  そしてその彼からのクリスマスプレゼントというのは小さな箱で、今、俺の目の前に突き出された。半纏を着た彼がこたつの対面でわずかばかり照れ臭そうにしている。数日前のことも赤くなった顔も堪能していたら、彼はムッと頬を膨らませた。 「やっぱや~めたッ!」  彼は小さな箱を回収しかけて、俺は咄嗟にそれを止めた。 「どうして。欲しい。くれよ。お前から、何か欲しい」  部屋の隅で電子ポットが沸騰を告げた。 「欲しい」  俺は彼の手を握った。自分で自分のその一言に邪心を感じて俺も俺で多分顔が真っ赤になった。こたつに入っていられない。 「……ゼッタイ、笑うなよ」  彼はそう言ってこたつから出ていくとココアの袋を出していた。俺はその間にラッピングを解いて箱を開ける。中にはコーヒーマグが入っていたが、大きな海苔が張り付いたみたいなデザインで、イラスト部分に検閲でも入ったみたいになっていた。  すると彼が戻ってきてココアの粉を入れてお湯を注ぐ。  そのうち検閲の入った黒塗りが消えていく。これは感温印刷がされているらしい。絵が現れる。  手描き感のある相合傘に、彼と俺の名前が癖のある字で載っている。数日前の彼の様子や言葉が組み合わさっていく。俺は目の前で掻き混ぜられるココアよりも甘くてぐちゃぐちゃで、俺の体温だけで一生この絵はそこにある気がした。脆く危ういそれが目の前になかったら、勢いのまま抱き締めていただろう。 *** 1000字弱。 熱湯ココアあるなら確かに危ないわ。 2022.12.16

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