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あっぽぅじぅす ※
monogatary.comからの転載。
お題「喉仏出太郎は振り向けない。」
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飲み会に来たのは失敗だったかも知れない。喋るのが下手で人付き合いもそう得意ではない俺が参加しても気を遣わせるだけだ。
目の前のからあげをつまみながら烏龍茶を飲む。とりあえずそれだけでも楽しんでおかなければ、余計に周りに気を遣わせてしまう。
それならどうして参加したのか。……彼がいるから。
一緒に盛り上がれないから、せめて酔っ払った同期たちの面倒でも看ようか。それまでは空腹の強欲な状態で次々頼んでしまった品を片付けよう。"縦長もやし"だなんて周りから言われるけれども俺は健啖家なんだ。残すのも勿体無いし、そろそろ酔っ払いが出来上がってる頃だし、おしゃべりに夢中で、みんな食べるのには飽きている感じだった。
「からあげ!」
後ろから彼の声がしたけれど、背負ったみたいに背中にぴたりと張り付かれて振り返れなかった。彼は俺の肩の上から手を伸ばしてからあげを取ろうとする。一人占めするつもりはなかったし、まだからあげは山盛りになっている。ギカントマックスからあげマウンテンとかいう、一番大きな皿だったはずだ。まだ通常の飲み会用のからあげ皿くらい残っている。
鼻に届くアルコールの匂いからいっても、おぶさっているような体勢からいっても、彼は間違いなく酔っ払っている。
ゼミでは挨拶したり、事務的な話ならしたことがあるけれど、個人として話したことはなかった。俺は話し下手で暗くて地味だ。明るい人気者の彼に話しかけても迷惑だろう。
俺はしかし背中にくっついている憧れの彼の体温に緊張して、喉がカラカラになってしまった。烏龍茶を呷る。あまり背は高くないけれど、スポーツマンで筋肉量があるらしい。反発がある。
「いい飲みっぷりじゃん!」
酔っ払った彼が肩から顔を突き出すものだから頬が触れそうだった。これがビールではないと知れたらどうしよう?
「細っそいなぁ。ちゃんと食べてるかぁ?」
至近距離で見詰められて、俺はもう口の中、何の味もしなかった。
「相変わらず顔がイイね」
彼はすっと頭を引いて、俺にはもう彼は見えなくなったけれど、まだ背中に乗っている。
「飲んでるときな、喉ごくごく動いてるの見てたん。撫でたらゴロゴロいう?」
俺のこと―
――彼の少し汗ばんだ手が俺の首を触った。なんだか少し苦しい。
「ネコみたいに、ゴロゴロいいそう」
「い、言わない……」
「なんか喉渇いてきた。甘いの欲しい」
俺は何度も頷いて店員さんを呼んだ。
***
990字弱。
2022.11.11
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