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テントウムシに煩う
アイツとさ、結構前に、とーげいしに行ったんだよ。くるくる、踏んで回して泥みたいなのでコップ作ったんだケド……
アイツね、あれのフチ割れたっていうから、捨てちゃったんだって。2人で作ったからさ、オレ結構、覚えてんだケド……
アイツは、ちゃんと自分で覚えてるんだし、大事なのは思い出で、形にばっかこだわるのは女々しい、女みたい、女なんじゃないのかって。
2つ悲しかったんだ。悪口みたいに女の子のこと言うのと、多分悪口のつもりで言ってるコトと、アイツの言ってるコト多分正しいしオレ バカだケド、でもオレたちの作ったのって全部割れたワケじゃないのにちょっとフチ壊れたくらいで捨てられちゃうモンなんだって……
ああ、全部で3つになってるな。やっぱオレ、バカだ。じゃあオレが間違ってたのかも――……
数秒前に別れた彼の話を思い返す。彼は笑っていたけれど、本当に笑っているのだろうか。
彼の恋人はろくでなしだ。同性の彼を恋人と決めておきながら複数人の異性とも付き合う。高圧的で相手を言いくるめて、自信家で、それでいてそれに見合う器用さと妙な度量があるからか、人を惹きつける。
俺にはない。複数人と同時進行で交際する要領の良さなどないし、好きな人に言い寄る度胸もない。"規範"というやつに縛られている。彼にはすでに心に決めた人がいて、ソイツがろくでもないすけこましだとしても。
「おい、あいつは?」
噂をすれば影がさす。アイツが考え事をしていた俺の前に現れた。追ってきたらしい。把握しているのか?彼の出先を?
「あっちに帰ったぞ」
そして律儀に答える俺。いつの間にか慣れている。嫉妬心に。麻痺したのか。それとも、コイツとの諍いの相談を受ける役割に甘んじてしまったか。抱き寄せて肩に触れた手が、まだ火傷したみたいに疼いている。
「聞いたのか?また愚痴られたんだろ?」
彼は俺に分けてくれるが、俺はコイツに分けるつもりはない。
「やつとの時間が憎いのさ。壊したくなる。幸せってのはいつか終わるだろ。勝手には終わらせねぇ。オれが終わらせるのさ。無邪気にオれにばかり"印象"を残していきやがって」
アイツは憎らしそうだった。ただわけが分かってしまうのに、実感がないのは、彼が手に入った側と手に入らなかった側の決定的で圧倒的な違いなのだろう。
***
960字弱
タイトルはテキトー。
2023.1.9
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