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ガラスの靴はアクリル製 ※
monogatary.comからの転載。
お題「モブキャラ」
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人に歴史があって、人は生きる小説みたいなもので、見えているのは人の形でもそこの中には様々な事情が、境遇が、経験が、価値観が詰まっているわけで。
俺がこの世界の主人公のつもりで、俺視点の誰かのストーリーの中を生きている心地はたまにある。つまりエキストラだ。ただ独白を与えられたただけの、誰かが主人公の三人称小説。俺が為すべきことは傍観者か。記録者か。介入しては、いけない。
クラスの中心グループにいる人気者。彼が俺の世界の主人公なのだと思う。まず明るい。優しい。成績は悪いようだが頭は悪くない。少年漫画やロールプレイングゲームの主人公とはまさに彼のような者のことをいうのだろうな。
俺は名もない村人A。モブキャラだ。ネームドではない。それなら俺は自ら彼に関わるべきではない。身分不相応な感情を抱いていたとしても。主人公なら勇者であるはずだ。終いには王様であるはずだ。そうでなくとも、それと同等の器を持っていて、名もない意思もない俺の出る幕はない。
ツキアイマシタ。
SNSの監視もきっと記録者としての俺の義務で、そこに映るのは彼と、女でもない俺と同性の男だった。彼は同性愛者ではないのに何故。コメントも温かかった。彼の人柄、日頃の行いが成せる業だろう。それを包み隠さないところもまた。性別で好きになったわけではなくて、その人を好きになったなんて嘘だろう。嘘ではない。何故なら俺も――
彼と付き合うにはそぐわない、俺の知らない男。隣の隣のクラスらしい。俺の知らないモブキャラだ。目立つところのない、話題にも上がらない、名前も聞いたことのない、そういう俺みたいな奴。モブキャラに徹底すべきで、彼みたいなネームドに割り入ってくるべきでない側。俺と同じ人種。
それか、奴はシンデレラ。
モブキャラのクセにそこに1人の人生がある。エキストラでいるべきだった。
奴のシンデレラストーリーの記録者になるつもりなんてない。"幸せに暮らしました。めでたしめでたし"で締めるつもりなんかない。プリンセスには悪役が付き物だ。厳密にはプリンスだけれど……
あのモブは通過点。ゲストキャラ。劇場版で死ぬのさ。主人公に必要なのは気高いヒロインだ。それならば俺がなってやる。
"幸せに暮らしましためでたしめでたし"では書かれないことを、俺が身を以って記録してやる。
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960字弱
2022.12.1
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