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アイの恋ランド ※
monogatary.comからの転載。
お題「床暖vsこたつ」
***
冬。冬といえばなんだ?鍋か?雪か?クリスマス?大晦日。どれも楽しみだ。どれも俺にとって幸せのメタファーだ。特に好きだった人が恋人に変わってからは尚更。
冬といえば?そうだ。お揃いのニット帽にお揃いのマフラー。できることならセーターも揃えたくないか?ベタなことがしたい。俺は。彼の弁当にはハート型を作りたいし、セーターもハート型を編み込みたい。彼の恋人は俺で、彼は俺の編んだものを見に見つけていると。別に外野に訴え出る必要もないけれど。
この前読んだ編み物の本で、編み方はマスターした。昔から俺は器用らしく、学習すれば一通りのことはこなせてしまう。とりあえずニット帽を編む。
「寒くないん?」
炬燵に入って寝転がっている彼が訊ねた。
「ああ」
俺は数を呟きながら返事をする。
俺は1人分の正方形のホットカーペットに座って、膝にはブランケットを掛けていた。俺は寒がり。自覚はある。けれど炬燵に入ったら寝てしまうだろう。それに彼の身体に触れてしまいそうなほどのテーブルだ。彼とぶつかったらどうなる?炬燵どころじゃない。どっと汗をかいて、そして冷える。ただでさえ重ね着をしているのだから。
「寒そう」
「別に平気だ。ホットカーペットだし」
「ふーん」
頬杖をついて、彼は俺が編むのを見ている。
「ドラムの撥 みたい」
「そうだな」
俺はまた数を数えながら返事をした。
「菜箸でもできたりして」
「そうかもな」
開いた編み物雑誌と比べながらこきこき編んでいく。
「つまんな~い」
彼は炬燵から抜け出して、俺の背中に飛び付いた。それから形を成していく毛糸をどかし、膝を強奪する。頭を乗せ、ブランケットを掛けて丸まった。炬燵布団は彼の形を残して留守になっている。
「身体を冷やす」
彼はホットカーペットからはみ出して、ブランケットだけ掛けて丸まって、腰も痛める。
「何作ってんの?」
「炬燵に戻れ」
「おまえと遊びたいんだよ」
少し不安そうな目に気付いて、俺は大事なことを忘れていたみたいだった。 俺はバカだ。大バカだ。彼との時間を潰してまで作るお揃いのものに何の意味があるのだろう。
俺ばかりが好きだと思っていたけれど、彼は俺に興味を持って、俺に歩み寄っているではないか。不安さえ窺わせて……
離れ小島のホットカーペットは今は不要だったのだ。
「アイスを買ってある。一緒に食べるか」
彼はうんと頷いて、俺の胸だけで炬燵が作れてしまう感じだった。
***
990字弱。
編み物で何数えてるのかは知らん。
2022.12.3
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