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ペトリコールの孤独 ※
monogatary.comからの転載。
お題「雨模様」
***
天気の悪い日は憂鬱だ。嫌なことばかり思い出して、苦しいことばかり考える。それは実体験であったり、実体験から派生したIFであったり、現実味のないことだったり、非現実的なことだったり。
根本の解決なんてできなくて、根本の解決のやり方は知っているけれど、不可逆的だ。決着の仕方ならひとつある。目を逸らすことだ。目を逸らすな、逃げるな、立ち向かえ。これが"正しい"時代はもう終わった。一個人には事情があって、各々のキャパシティがあって、根性論に幾人も犠牲がでていて、正論では人を救えないどころかむしろ追い詰めることがある程度認知されてきている……ような気がする。
昔よりは生きやすくなったような気がする。男がくよくよ考えていていても、女が思い切りよくても、まだ、そこに性別を出すことを刷り込まれてはいるけれど。
「何、考えてんの?」
俺は貪欲だ。初恋を叶えて好きな人と付き合えることになったのに、シアワセを謳歌しない。シアワセだろうな、と思っていたことを忘れて、不透明な不安にばかり気を取られている。
少し下にある大きな目が俺を覗く。
人はシアワセになるべきではない。人、は言い過ぎか。俺は。次から次へと不安を見つけ、不満を見つけ、手に入れたそばからシアワセを忘れてしまう。求めていたものを。
「なんでもない」
「ツラそうだったケド」
俺は雨の降りそうで降らない銀灰色の空を見上げた。彼と軒下にいる。俺とは反対に、彼は少し先のアスファルトを見詰めていた。
「くだらないことを考えていた」
「ホント?」
彼はあのアスファルトから俺を見上げる。
「不毛な話だ。お前といるのにね」
彼は俺から目を離して、ああ守らなきゃな、なんて不甲斐なく思った。守れる気概なんて最初 から無かったくせに。
「いいよ。仕方ないよ。だってそれがオマエじゃん」
許される?許されたいのか。俺は彼の優しさに甘えて、あの死地の隣に居座って、まだ煉獄に閉じこもって、スベテオワレル場所に逝かずにいる。
酔っているのかもしれない。シアワセを謳歌しないことが、結局、なんだかんだ、シアワセで。
「……ごめんな」
高いところから見下ろした地面に慄こうと、アスファルトに叩きつけられようと、君の頭蓋が割れる音を聞こうと、遂げてしまうまでの息苦しさだと思っていたのに。
「晴れるといいな。雨降るし、晴れるか」
君は俺の覚えている言葉だけをそっくりそのまま繰り返す。
***
2022.12.7
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