85 / 178
兎月井蛙 ※
monogatary.comからの転載。
お題「我が家の冬支度」
***
秋なのか冬なのか分からない日々が続くけれど、12月もそろそろ中旬になる。もう冬ということでいいだろう。
何よりも暑がりな、夏の申し子みたいな恋人が寒がっている。
彼と過ごす2回目の冬。マフラーよりはネックウォーマーで、耳当て。目に煩いほど鮮やかなニット帽。色違いの同じブランドのダッフルコートは偶然。もしくは運命。彼はそういう装いだった。夏は半袖にハーフパンツで側頭部は刈り込んでいたのに、もうこの時期になると冬毛のタヌキみたいにもっさりする。
「さっみ。もう冬だな、コレ」
太陽を愉しむのなら夏よりも秋冬だと思う。でも今は月だ。住宅地もこの頃になると18時過ぎなどは電飾でぴかぴか輝いて、夏場は日焼けしていても、もうぷにぷにと少し肉もついていてその頬も光っていた。俺は彼を介して電飾を見ている。
「肉まん買って帰ろうぜ」
彼が電飾よりも眩しく笑う。好きな人を前にすると瞳孔が開くらしいから、彼を眩しく思うのは仕方がないのかもしれない。
「そうだな」
「明日こたつ出そ。入りに来いよ」
「いいのか」
「そりゃね」
寒がりな俺は温かさに飢えていて、考え過ぎたと言われがちな俺は、冬になるとさらに心も荒ぶ。だから暖房器具なんていうのは幸せの象徴みたいなところがある。寒がりなのに、好きかもしれない。冬が。夏より。
「おい!月めっちゃキレー!見ろよ!」
彼が家と家の間から月を見つけて指をさす。
「ウサギ見えるぞ」
「杵 と臼 も見えるな」
俺も少しオレンジを帯びて、輪郭のはっきりした月を見上げた。すると俺の腕に彼が頭を擦り付ける。セーターとコートが肌で撓 んで、気持ち良い。彼の感触も。
「隙あり」
「隙無くても来い」
日替わりの極彩色のニット帽を被る頭を抱き寄せる。俺の湯たんぽだ。夏は俺が保冷剤らしいからいいだろう?俺は雪女か。
「大晦日、どうする?実家、帰る?」
「どうするか、迷っている」
「もし帰るなら、日付変わったらさ、テレ電しよ。家族寝たらでいいからさ!」
この一言は、早過ぎるお年玉ではないか?いや、今年分なら遅過ぎるけれど十分過ぎもする。
「ばか言え。日付変わる前から繋いでおこう」
けれど言っているそばから気が変わった。
「帰らないで、一緒にいる」
「ん、クリスマスにおまえのコト借りちゃうからさ、大晦日はやっぱ家族と過ごせよ」
「借りる?俺はもうお前のモノなんだが」
そんな予定を立てる会話を昨年もした気がするのに、少し前より踏み込めている。
***
往来でノロケるな。
2022.12.11
ともだちにシェアしよう!