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バストトップ事恋 ※

monogatary.comからの転載。 お題「タンクトップ事変」 ***  寒中水泳に行くと言い出して、さすがに心配にもなる。俺は彼についていくことにした。水泳の経験者とはいえ、それはプールの話だろう。何しろ今は1月だ。  一年の気合いを入れる、らしい。意識の高い動画にまた影響されたみたいだ。    夏は暑がりで、冬は寒がりの彼が寒中水泳などできるのだろうか。  身体を温めてしまうと寒くなるとは彼の談で、タンクトップ一枚にハーフパンツである。俺はセーターにチェックのパンツ、ダッフルコート。カイロは腰に貼ってある。 「本当に平気なのか?」  彼の身体のこともそうだが、川に勝手に入ることも。 「へーき、へーき。オレを誰だと思ってるんだよ」  かく言う彼の唇は青くなっているし、顎が震えてかちかち鳴っている。 「寒いんだろう?」  俺は甘い。手相占いでも甘やかすタイプだと鑑定されたし、おみくじも然り。自覚はある。周りからも彼を甘やかすなとはよくよく注意はされている。けれど俺というのは本当に甘い。 「へーきだって。ワンチャン水の中のほうがあったか~いって言ってたもん」 「考え直せ……それでも冷たいことには変わりないだろう?心臓に悪い」 「まぁ、見とけよ!」  すでに河原まで来てしまっている。もっと早くに止めるべきだったのだが、俺というやつは…… 「へっぐし、くしゅん……」  彼がくしゃみをして、俺はコートを脱いだ。羽織らせようとした途端に、タンクトップを押し上げる胸に気付いてしまった。ああ可哀想に、寒いのだ。時刻は朝。これをするためだけに、彼は大好きな布団から這い出てきた。けれど俺は赦せない。サッカー、水泳、バスケットボールと鍛えられた彼の胸板で、タンクトップを押し上げる2つのもの。それを世間に晒すだなんて赦せない。どこかでヘンタイどもが撮っていたらどうするのか。ヘンな妄想に使われたら?俺は冷水を頭から浴びせられた心地がした。鳥肌が立った。恐ろしすぎる。俺は赦せないぞ、そんなのは。夏場に肌を晒すのとは違うのだ。俺はコートを羽織らせる。文句は受け付けない。 「な、何すんだよ」  人影なんて犬の散歩とランニングをしている人々しか見当たらないけれど、他にどんな眼差しがあるかなど分からないものだ。 「だめだ、だめだ。絶対にだめだ。帰るぞ。絶対に、だめだからな」  俺は彼の腕を鷲掴んで引っ張った。俺のコートがワンピースみたいになっていて、特殊な性癖を煽るようなマニアックな姿になってしまった。 *** 2023.1.5

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