90 / 178

早春に予兆 ※

monogatary.comからの転載。 お題「七草粥」 ***  起きたらアイツがいなくて、何でかなって思った。でも昨日、久々に連絡のきた友達と遊ぶって言っていたから、それかな。  それなら連絡くらい、入れておいてくれてもいいのに。  でもオレからは連絡しないんだ。久々の友達と遊んでるんだもんな。邪魔しちゃ悪いもんな。  オレが起きたのが10時。もう15時。まだ何の連絡もない。  そういうもんなのかな。アイツはちょくちょく連絡くれるから、それがトーゼンみたくなっちゃってたケド……  今日は七草粥って決めてて、買い出しに行かなきゃならないんだケド、アイツまだ帰ってこないし、オレ一人で行ってもいいのかな。アイツには一人で行くなって前に言われてからずっと一緒だったり、アイツに任せたりしちゃってるケド、どうするんだろう。  連絡しても、いいのかな。  でも悪いかな。  こんなことなら昨日、買っておけばよかった。もう出てたし。あとは炊飯器が、やってくれるんだし。  急かしたら悪いから、まずは、「楽しんでる?」くらいでいいか。楽しんでるといいケドな。  でもアイツから返信はなかった。  日が暮れていく。明日はちょっと遅めの初詣だけど、有名なところあるから、行けたら行こうなって前から話してたけど、今日遅いんじゃ、明日は疲れてるよな。  今頃、スーパー混んでるだろうなって暗くなってる外見て思ってたら、スマホが光った。 『悪い。帰りにスーパーで弁当買っていくよ』  オレはなんか、キュっとなった。  アイツが帰ってきて、オレに紙袋を渡してきた。 「土産。―神社に行ってきてさ」  オレはまたキュッとなった。オレと行こうって言ったところだもん、ソコ。  でもアイツは忙しいから、仕方がない。オレとはなかなか予定が合わなかったし。 「そっか。ありがとな。なんだろ?」  オレが紙袋を開ける。オレが行きたいって言ったトコの店のシールで苦しくなる。  テレビで観たとき、美味しそうって言った煎餅。あれかな。あれだったら嬉しいな。 「それ、美味そうだろう?」  中にはよーかん。オレの嫌いなユズの味。知らなかったっけ。言った覚え、あるんだケドな。 「う、うん」  オレは紙袋に戻しちゃって、悪いコトしたなって思った。  アイツが買ってきた弁当を食いながら観たテレビで、七草粥のことがやっていた。  思い出しちゃったらヘコむかな。なんだか気マズイなって思ったのに、アイツは何も気付いちゃくれなかった。 *** 2023.1.7

ともだちにシェアしよう!