101 / 178
夙めて勤めてつと愛でて ※
monogatary.comからの転載。
お題「朝残業」
***
システムトラブルというから、予定より2時間早い出社になったけれども、会社とはチームワークだから仕方がないのだろう。毎日というわけではないし、昨日の夜から残っていた奴等もいるのだから、比べるのもおかしいが、家に帰って寝られただけでもありがたい。
青白い朝は嫌いではなくて、朝型人間の俺としてはそう苦ではない。ただ早朝から飯を食えないから、それがいくらか不利益 ではある。
同棲相手が朝飯を食えないことを心配して板チョコとバナナ味の豆乳をくれた。彼らしい。彼とは同じ会社だけれど部署が違う。まだ寝ていていい時間だったのに俺に気を遣って起こしてしまったのをすまなく思った。
豆乳バナナをストローで吸いながら、徹夜組の繋げてくれた業務にあたって2時間。通常の出社時間になった。
「おい」
彼が俺のいる部署のオフィスへとやって来た。
「腹減ってねぇ?弁当作ったんだケド、食べる?」
俺の目の前にタッパーの入ったポリ袋を見せる。彼は家事は得意ではなかったようだけれど、俺と同棲するようになってからは練習して、朝飯や弁当を率先して作るようになった。
「いいのか。おまえ、昼飯はどうするんだ?」
「これ食うか分からなかったから一応菓子パン買ってきた!昼飯はいつもどおりでへーき?」
俺と彼が同棲していることは隠し事ではなかったし、交際している段階から公言していた。セクハラが無かったといえば嘘にはなるけれどあまり気にしてもいない。
「うん。ありがとう。助かる。ちょうど腹が減っていたから」
「んーん。じゃ、頑張ってな。何かあったら連絡しろよ」
「分かった。早くに起こしてすまなかったな。じゃあ、また」
彼は颯爽とオフィスを出て行って、俺はこれ以上冷めないうちに弁当を開けた。少し焦げた卵焼きとウィンナーが2つ。白米にはでんぶで歪んだハートマークが描いてあって、これがやりたかったのかも知れない。彼は日に日に料理が上手くなる。玉子焼きはコンディションがまちまちで綺麗に巻ける日とそうでない日があるみたいだけれど、慣れてきたようだった。
こういうのも悪くないと思った。昨日の帰宅後は早めの起床に早い就寝でばたついて、さらに早朝からの仕事で疲れはあったけれど、豪華な朝飯にまた気が引き締まる。今日は俺のほうが早く帰れるだろうから、何かあいつの好きなものを作りたい。ハンバーグか……キムチ鍋か……
あとで同僚から聞いたけれど、このときにやけていたのを見られていたようだ。
***
でんぶでハートは古い
2023.3.27
ともだちにシェアしよう!