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逆剥けそこ向けtoはーと ※
monogatary.comからの転載。
お題「剥がれた、その先」
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爪が長いな、とは何となく思っていた。けれど、思った程度で、そう重要視はしていなかった。
「ぁぴゃ」
彼が躓 いて、傾く身体を柱に指一本で支えてしまったようにみえた。突指したかと俺は焦った。彼も指を押さえている。事情を聞くよりも先に俺は冷蔵庫から保冷剤を持ってきてタオルに包 んだ。
「突指か?骨は?」
「指はへーき……でも爪が……」
俺は心臓を握られてそのまま冷凍庫に放り込まれたような心地がした。
「大丈夫か!」
患部を握っている彼から手を奪い取った。俺の想像したような、爪甲がまるまるひとつ、爪床から剥がれているような惨状ではなかったことにひとまず安堵した。けれど確かに端のほうが割れて薄らと血が滲んでいる。
「大丈夫か?ゴメン。大袈裟だったな」
俺はそうとう、本人よりも青褪めた顔でもしていたらしい。怪我したほうの手の甲が俺の頬に触れた。
「いいや、大袈裟ということはない。爪じゃ痛いものな。消毒して絆創膏を貼ろう。そこは治ってきてから爪切りで切ればいいだろう?」
すぐに救急セットを用意して、手当てした。彼は意外とのほほんとしている。俺は絆創膏にハサミで切れ込みを入れながら、剥がれないよう巻いていた。
「さんきゅ」
「いいや、いい。爪、切っておくか。貸せ。切る」
手の爪も、足の爪も俺が切った。子供みたいな手で、子供みたいな足だ。同い年なのにこうも違う。だから惹かれたのかもしれないけれど。だとしたら俺はヘンタイっぽいな。
「突指のほうはしてないんだな?指、曲がるのか?」
「うん。そりゎヘーキ」
絆創膏の巻かれた彼の指がくねくね曲がる。健気に映る。かわいい。
俺は救急セットをしまってから自分の爪を切った。そして切り口を磨く。彼の柔肌を傷付けたくはない。
「オレも磨く」
俺の爪磨きに興味を示して、彼の指も磨いた。手を繋いでいるみたいだ。
「ささくれがあるな」
日焼けした指に剥けた薄皮がよく目立つ。爪切りで切って、軟膏を塗る。いい肌をしている。かわいい。
彼は急に俺を振り向いて、見上げてくるからドキりとした。なんだか焦点は合わないけれど。
「オマエも唇の皮、剥けてんぜ」
俺といえば彼の大きな目に吸い込まれていて、俺の聴覚は半分働いていなかった。だから何を言っていたのか、ろくに聞いてやしなかった。ただ、彼の姿は大きくなってもう視界に収まりきれなくなって、ぼやけて、目の前は翳って――……
***
2023.3.29
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