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アオハルのかほり ※

monogatary.comからの転載。 お題「下駄箱」 ***  下駄箱を開けると、薄桃色の四角いものが蓋と一緒に出てきて滑空した。それが着地するのは走行を防ぐための便所サンダルと、派手な靴下。女子は頭髪に自由がある代わりに男子は靴下とベルトがそれなりに自由だった。 「あ……」 「またラブレター?モテモテじゃん」  いつもは遅刻寸前で登校するコイツがすでに上履き用の便所サンダルを履いてここにいるということは…… 「補習か?」 「そ、そ。覚えてたんだぜ、えれぇだろ」 「普通は覚えているものだ」  朝練は忘れないのにな。 「それより、ほれ、落としもん。返事書いてやらねぇと」  冗談で言っているのだろう。少しだけチクりとクるが、意外とコイツもそうだったりして。  女の子の手紙っていい匂いしそ〜とでも言わんばかりだ。いつもは俺に絡んで鼻を鳴らし、いい匂いだなんだと(のたま)うくせに。 「下駄箱に入っていたんだぞ」  そのまま鼻先まで持っていかれそうで奪い取る。  文明の発達したこのご時世でも紙媒体はなくてはならないもののひとつだ。その筆頭はトイレットペーパーなのだろうけれど。  「読んでみろよ」 「読む必要はないな」  今まで何度かこういうことはあったが、中に目を通したことはない。不気味だ。大事な内容なら口で言ってほしい。実は尻の布が破れているだとか。 「読めって~!」  後ろめたいのは俺だけか? 「書かれていることなんて大体一緒だ。違うならこんなふうによこさない。それで俺の答えは決まっているし、少しはカノ"ジョ"というかカレシというか、恋人として妬いてみせろよ」  ヤツはにこにこしていた。 「いや、だから見てみろって。オレ今日、珍しくオマエより先に来たワケよ。宛名、見てみ?」  渋々と俺はハートマークのシールを剥がして、便箋を開いてみた。字が汚い。そして最後の行には、今目の前にいるヤツの名が記されている。 「記念日とか忘れちゃうタイプか~。意外。マメかと思った。色々なオマエを知れるねぇ」  俺は目と頭と耳を同時に働かせていた。つまり手紙にはそのことが書かれていた。忘れていた。忘れていたというか、月毎(つきごと)にやるのか? 「1ヶ月前、ここでコクってくれたんだもんな。ロマンチストに見えて大胆だな~」  急に恥ずかしくなってきた。そうだ。部活で怪我して早退する姿に、訳も分からず焦って、その(はず)みで…… 「ンじゃ、返事、書・け・よ♡」  玄関を吹き抜けた風が、青春の汗臭さと土臭さとほんのりとした黴臭さを運んできた。 *** 2023.4.9

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