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先延ばしの憂 ※
monogatary.comからの転載。
お題「ネコに転生して世直し開始」
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周りを見れば、人がいる。人がいるということは、それだけ親世代に男女の柵 があったというわけだ。時代が時代で、そこに恋愛が介在しなかったものもあるだろう。或いは、それは不可逆的な結果となって、そこに愛情だの希望だのが"在った"ことにされた存在も無いとは言えなかろう。それを隠し通せるか、あからさまにするかの違いもまた天と地ほどに差がある。知ることがすべて正しく、また正しさがすべてを幸福にするとも俺は考えられない。
男は女と、女は男と、いやいや、今の俺の状況を鑑みれば、男と男、女と女だって他者を愛するという点で一緒くたに語ってしまって差し障りがない。
子を遺すつもりがないのは生物としておかしいそうだ。そしてそこに至るにはまず他者に興味を示すべきだなのだ。
女という生殖時の役割からいえば、女が子を遺すことを不安し、消極的になり、警戒しがちなことについては理解できるだろう。当たり前とされてきた風潮の逆行であるし、世間の圧も彼女等には強かろう。けれども、俺はそうではない。だから俺が女の比べればローリスクのものに対して恐怖を抱いている臆病者でおかしく、尚更に生き物として狂っているというわけだ。
そしてすべては俺が異性と番い、子を持つことを勘定に入れられた世間からの投資なのではないかと思うと、ここで損切りするのが筋だろう。人が一人の、一個人の幸せを追求できる時代に入っていると思っていた。けれど違った。そのためには誰かしらが産み、誰かしらが育て、誰かしらが支える。ミツバチのようだ。それでいいと思っていた。けれど役目以外のことまで気にした俺が悪い。俺はミツバチになりきれなかった。
風に当たりながら物思いに耽っていると、膝に柔らかいものがぶつかった。それはネコだ。黒糖パンみたいな腹をしたキジトラ。
布越しに纏わりつく柔らかさに妙な心地がした。擦りつけられて残った毛にも……
首輪はなかった。けれど毛並みや肉付きが、完全な野良とも思えない。この懐きようも。では、誰かから餌付けされている?訳もなく丸 カステラを眺めながら考える。
しかし今、野良の状態ではないか。
急に"ビジョン"が浮かんでしまった。猫じゃらしで遊ぶ自分のビジョンが。ベッドでこいつと寝る自分が。
何と呼ぼう?タマ!ポチ……トラだ。
俺は一度、欄干の下の濁流を見遣ったが、「損切り」する気はいつのまにか失せていた。
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2023.4.24
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