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迷い蜂 ※
monogatary.comからの転載。
お題「明日も頑張ってみるか。」
***
「なんで女子に冷たく当たんだよ」
腕組みは、相手を拒絶する仕草であるらしいけれどそんなことはない。ただ腕をぶら下げているのに疲れ、肩が凝っただけのことだった。いやいや、相手への拒否ではなく、対応に疲弊しているということの意訳ならば強ち間違ってもいないことに気付く。
「交際を断ることが冷たく当たる?それなら俺は何人もの女と交際しなければならないのか?」
野生ではメスがオスを選ぶ。ゆえにオスのほうが多才で、オスのほうがヒトからみて美しく映る。生殖的な役割や制限を考えればいずれはそこに連なるものとして、恋愛に於いても女が男を選ぶ仕組みについて文句はない。だがヒトだ。男にも当然に人権があり、責任もあれば、選択もできる。むしろ世間は男に権力を与えすぎた結果、今では強者がゆえの加害者性を論 われているわけだ。
「そうじゃなくて……もっと愛想良くしろって話。っていうか付き合えばいいじゃん。可愛い子だったろ?泣いてたぞ」
「余計なお世話だな。人が嫌いなんだフられる覚悟もないやつが告白なんかするな。名前も知らない奴となんか付き合えるか。関わらないでくれ」
「ああ、人嫌いなんだ。分かった。治そう!」
こいつは危険人物だと思う。アレルギーは食べて治そうとか言い出すタイプか?
「断る」
「そんなモテるのにもったいねぇもん」
「もったいないとか、ないだろう……その思想は怖い………独善的で、支配者みたいだ」
けれどもこういう考え方が特別奇異で特殊なわけではなくて、おそらく世には蔓延っている。そして平然と俺にぶつかってくる。
「なんで?」
「それはあんたやその他大勢の意思であって俺の意思じゃない。境界を持ってくれ。迷惑だ」
「このまま1人で生きていくん?」
無邪気だと思った。タフだと思った。柵 なんか面倒臭い。同調も異見も。
「友達もいないまま?」
「あんたには関係ない」
背を向けた俺の腕は取られて、固く握られた。蜂球みたいだ。
「気持ち悪い」
他人の体温が嫌いだ。そういう生き方だってあって然るべきだ。俺はお前等に迷惑をかけたのか?
俺はその手を振り解いた。激しい羞悪に襲われる。踏み込まれるのは恥だ。気持ちの悪い、薄気味悪いことだ。
「治療が楽しいワケないじゃんね」
ああそうだ、コイツは腕を縫ったか何かで長いこと休んでいた。
「明日も頑張ろうな」
「断る」
「少しずつ、ね?」
半袖からガムテープを貼ったみたいな傷跡が見えた。
***
2023.4.24
行き着く先は殺伐か和解か。
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