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一匹狼の流離い ※

monogatary.comからの転載。 お題「孤独主義者」 ***  人は1人で生きていけないらしい。同時に、世間は独りにしてもくれない。血縁の(しがらみ)は信仰にも似ている。外を歩けば、誰かが誰かを品定め吟味する。  「人」という字は人と人が支え合っているらしい。寄り掛かっているかも知れないのに?どちらか一方はもう、投げ捨てて諦めて、崩れ落ちたいかも知れないのに?  「人」という字をスマホに打ち込んでみたとき、明朝体設定のそれでは祈りに手を合わせるようにも見えた。つまりは見え方だ。解釈の違いだ。認識の問題だ。  人を一人愛してしまえば、世間はどうでもよくなるらしい。  世間すべてを愛してしまえば、人の一人も愛せなくなるらしい。  確かにそう思った。災害後の買い占めで、特に。脳裏を過る1人を慮る一心で、その他有象無象を(かえりみ)ることもない。  良心と罪悪感。思いやりと利己。両立しなければ自己矛盾を抱えることもある。世も心も思うほど理路整然とはいかなかった。  それが"存在する"ということだ。業だ。生まれ堕ちた税金だ。  けれど生まれてしまったからには上手く付き合っていくしかない。割り切っていくしかないのだ。或いは開き直り、溜飲を下げていくしか。 『別れるの、あんまり、悲しくない?』  荷物を取りに来た彼が帰り際に言った。  俺は世間の建前と実情に辟易していた。「世間」という一括りでしか物を語れない自分の浅慮、浅学(せんがく)ぶりにも。  するべきじゃなかった、言うべきでなかった。傷付けた、傷付けられた。赦す、赦さない、赦されない。反省ばかりだ。そして改善、解決の繰り返し。根本は変わらないクセに、恋人からさらに踏み込んだ関係になれば選択が倍になって返ってくる。その重圧を、気にせずにいられた自由の制限を、人は「愛」と呼んでやり込め、「幸福」と当て嵌めてきたのか。    「理想の俺」が俺に付き纏っていた。これが孤独か。彼といたときには削ぎ落とされていた。それがおおらかな彼への甘えで、俺なりの彼へ晒せた素顔だったのだろうな。  共にいることで、爪を研ぐみたいに、鋭く伸びていく棘が摩耗していたみたいだ。心はその時々。げんきんなものだ。人は生まれて死ぬまで独りだと、早々知っていたならば、苦し紛れの幻想に浸かる手段も得られるのに。 『俺には、向かなかった』  失ってから気付く。傷付けてから。もう二度と要らないと知る。  一匹狼。あれは群れを離れたのではなく、ついていけなかった個体だったのかもしれない。 *** ヨリの戻し方も知らんという 2023.5.2

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