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遺声と残雪 ※

monogatary.comからの転載。 お題「不在着信」 震災描写がありますが、特定の震災を指すものではありません。 ***  そこに居た、という証明は今の時代、写真や動画で遺るわけだ。音声にも。  どうしてあのとき、電話に出られなかったのか、という後悔は不思議となかった。  むしろ出られなかったことに安堵している自分もいる。同時に、そんな自分の薄情さに嫌気が差したり。  まだ、実感がない。幻覚をみているような。いやいや、"今までが"幻覚だったのかも知れなくて。  だとしたら、彼の遺族(かぞく)とミている集団幻覚か?いやいや、言えるか?彼が幻覚でした、なんて。家族の前で?  そんなふうに片付けるのは、俺が実は彼をアイシテいなかった証拠なんじゃないか。  だって、彼の最期の電話に出られなかったことを良しとしている。何を言いたかったのか聞けないまま。ふざけたオレオレ詐欺みたいな入り方と、まだお前には未来があるかのような口振りをして、まるで俺と話しているみたいに振る舞う。  無いんだよ、お前には。お前は出張先で、震災に遭って、ひとり死んじまうんだ。  笑って見返すつもりで撮ったはずの写真、動画。  アプリを開いて、何かの拍子で画像フォルダ見えるだけで、どうして息苦しくならなければならないのだろう?どうして消したくなってしまうのだろう。消せないくせに。消さないくせに。日常に戻れないほど深く染み入っていて、晩春まで溶けきれない物陰の残雪みたいだ。土埃にまみれて、空にも還れない。  2人でいたときに聴いた音楽ももう聴けやしなかった。記憶に染み入って、絡み合って、毒して。  息が苦しくなるだけ。泣いてやれない。思っていたより俺は薄情で冷酷な人間で、お前を愛しちゃいなかったみたいだ。  どうして出てやれなかったのだろう?俺もまた、彼との未来があるだなんて慢心していた。  彼は死にはしない、離れていきやしないだなんて、そんな確証がどこにある?何を信じて、何を決めつけていた?  彼の名前が表示されたまま、不在なのは俺じゃなくてお前なんだよな、なんて思いながら。用を果たせなかった項目は、スライドすれば簡単に消せるのに消せないでいる。  世間の大きな変動があった日付について、俺はそんなスケールでは考えられなくて、あいつと一緒に死んでいった人たちのこともまったく慮ってやれないまま。何の連帯感も抱けず、彼の遺族とも分かち合いきれず。俺とあいつとで完結した気になって、なのにまだ何の解決も決着もしきれていない。それはあいつに対してなのか、俺に対してなのか。  何ができたわけでもない。自分の冷淡にぶち当たって足踏みだ。  ごめんな。俺はただ俺に謝るためだけにスマホを握り締めて、バカみたいだ。誰に赦されたいのかも分からない。 ――あ~、オレオレ。出張先着いたんだケド、また掛け直すわ。んじゃ~なぁ。 *** 2023.6.7

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