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さかさま寝相 ※
monogatary.comからの転載。
お題「さかさまな関係」
***
畳の上で寝ていた。少し硬いがフローリングほどではないし、ほんの昼寝のつもりだった。クーラーが穏やかに空気を切っていく音が心地良かった。
俺はあまりクーラーの冷たさが得意ではなかったから設定温度は高めにしていたけれど、眠りの中で少し寒くなった。けれどちょうどよく、そこに温もりが近付いてきたから、祖母の飼っている赤トラの猫だろうと思った。猫も毛皮を持って大変なことだ。
けれど赤トラはそのうち離れていってしまったようで、俺はまた寒くなった。喉も痛くなってくる。何か飲みたくなって目を覚ます。設定温度の割に、クーラーから出てくる風がやたらと冷たいと思って、テーブルの上のリモコンを見ると23℃。5℃も低くなっている。怪奇現象だ。この部屋には霊がいるらしい。
俺は赤トラだと思っていたものの正体に気付いてしまった。彼がそこに寝ていた。頭の位置はほぼ同じに、身体の伸ばす方向は逆に。俺たちは逆さまになって寝ていた。人の家を広々と使って寛ぎすぎている。悪い気はしないけれど。
ただ23℃は寒すぎる。設定温度を直しているうちに、その音で彼の目は覚めたらしい。5回も軽快な音が鳴るのだからさすがに起きるか……いやいや、彼の睡眠欲にしては敏い。よく食べよく寝てよく遊ぶ。健康的でよろしいな。
顔を覗き込む。驚くかと思ったらそうでもなかった。
「あ~、おはよ。ってか喉いて」
「よくここにいるのが分かったな」
「オマエのばあちゃんがうちにいるから上がってけって。そしたらオマエ、寝てんだもん」
俺は麦茶を2つ用意した。彼は一気にそれを飲み干した。
「起こせばよかっただろう」
「昼寝してんの珍しいなって。添い寝したろ!って思ったら猫ひっついてんだもん」
「嫌いか、猫」
「ぐにゃぐにゃしてて潰れそう」
彼はぼさぼさに乱れた髪に雑な手櫛を入れた。そして盛大なあくびをする。
だから、あんな変なふうに寝ていたのだ。寝相がとんでもなく悪いのではなくてよかった。
「逆さまに見ても、寝ててもオマエめっちゃイケメンだなぁって思ったね。どっちかはブスであれよ」
真正面からさらりと言われると思わず、俺はどう対応していいのか分からなくなった。顔が熱くなる。28℃、確かに暑いな。
「……ありがとう。お前はかわいかったぞ……ライオンさんみたいで………」
「なんだよ、ライオンさんて!」
あぐらをかく彼の足元に赤トラが図々しくやってきて座り込んでしまった。彼は温かいのだろう。
***
没ver.があるくらい難しいお題だった。
2023.7.5
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