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赤い糸ペア手枷 ※

monogatary.comからの転載。 お題「もうお互い自由になろう?」 ***  俺たちはひとつのベッドのなかにいた。昨今の風潮を鑑みれば、別に赦されない関係というやつではないけれど、もっと具体性を持ってみれば、あまり褒められた関係ではないように思う。  褒められた関係?ろくでなしどもばかりのこの世間で、一体誰が褒める褒めないだの決める権利を持っているって?  災害級の猛暑だというのに、冷やした部屋でやることは、身体を冷やすことではなくて、むしろ暑くなることだった。蒸れもする。人の頭はスイカみたいだが、人の身体もまたスイカみたいに水分ばかり。そこには血があって臓器があって、組織があって。魂というやつにはどれだけ水分が含まれているのだろう?心というやつには?多過ぎてはカビが生え、少なければ乾涸びる。適度というものが必要なのだ。距離感にもな。関係性にも。 「もう終わり~?」  我に帰ってしまうと汗ばんだ身体は冷房との差異に苦しかろう。息切れしながら彼が訊ねた。  俺はそれを"どちら"の話なのか分からなかった。結露しきれず温くもなれないテーブルの上のペットボトルの麦茶を啜る。 「終わりにするか」  この関係を?今日のところを?俺は卑怯だから、この意味を彼に委ねた。 「ふぅん。シャワー浴びたらブレーカー落ちる?」 「設定温度を上げる」  俺はリモコンを手にした。シャワーの温度も最低温度の37℃で浴びるのだろう。彼のことだから。 「んじゃ入ってくるわ」  彼と俺は付き合っているのか?答えはNO。互いに他に好きな人がいるはずなのだ。彼の片想い相手と俺の片想い相手がいい仲だと察したとき、俺は彼の目からほとんどのことを読み取ったつもりだし、 あの2人が上手くいっているのだから、俺たちが互いに鬱憤を晴らし合うのは、俺的には自然の成り行きだった。  人というのは業が深い。決着した気持ちは鎮まって、意外と近くに埋火があったりするものだ。いいや、延焼かも知れない。  自惚れていいなら、まだ想われているというほど浮ついて華やかで確かなものではないのだろうけれど、彼の向けてくるものは、俺と方向性を共にしていいものな気がしている。 「はぇ~、涼しい」 本当に汗を流しただけの彼が早々浴室から戻ってくる。  今の関係は、既存の概念に囚われすぎている。俺のこだわりだ。一度名付けたらこびりつく。名札を剥がして作り替える必要がある。表示も変えて。  互いに自由になってみないか?意地の張り合いはやめて、他の奴等のことなんて忘れて。 *** 2023.7.28

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