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もらい火夜り ※
monogatary.comからの転載。
お題「手持ち花火に熱を添えて」
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線香花火は人生に喩えられるらしい。はじめはばちばち火花を散らし、その様は泣き喚いているみたいだから?そして安定して火玉を作り、あとは呆気なくぽとりと落ちるところが老人がぽっくり逝くのと似てるって?
焦りか苛立ちか分からないものが突き抜けている。
彼もあいつも派手なのが好きだから、線香花火は俺のものも同然だった。いいや、それは言い過ぎか?
彼はあいつときゃいきゃいやっていて、3という数字は今まで美しく見えていたのに、今日は嫌いだ。素数だし、人は3という数字にこだわるだろう?分からんけれども。
いやいや、2人で来たところで素数だろうが……違う、素数か否かは関係ない。間が持たない。そうだ、所詮俺は臆病者で口下手で陰気で嫌味ったらしい男だよ。
線香花火も愚痴っぽい俺に嫌気が差したらしい。潔すぎるほど潔く落ちて消えゆく。こんな男の手元で耀くよりも、桜みたいに散るのが誇りとばかりにな。侘び寂びというわけだ!俺の恋みたいにか?
「なんだよ~、オレにも見せろよ」
彼は明るく、能天気で、何も考えていないように見えて気遣い上手だった。
俺の肩を叩いて、顔を覗き込んでくる。あざといと思う。小悪魔だ!天使だろうか?いいや、天使は褒め言葉じゃない。あれは結構グロテスクで醜いものだ。
けれど惹かれてしまったのだから俺の負け。勝てない。うんうん、と頷くだけ。もう1人誘うな!なんて言われたときも。それってつまり、断られているよな。脈、無いな?
「……悪い」
彼が新しい花火を選びにいった。代わりに空気も読まずについてきたあいつが馴れ馴れしく俺の肩を掴んだ。
「おれ便所行ってくっから、その間にキメとけよ」
俺の肩を引き寄せて、耳元にあいつの口元が近付いた。
「どういうつもりなんだ」
「フツーに気拙ィ!なんでおれ誘ったん?」
なんでお前を誘ったかなんてこっちが訊きたい。
「おれの"誤解"ならコクっちまうからな。制限時間は5分。長ぇクソしてきてやる」
言いたいことだけ言って、やつは俺の肩を叩いていった。それで下品な一言を残して離れていく。
「なぁなぁ、次の一緒にやろうぜ。線香花火ばっか、つまんねぇだろ?」
彼が俺の分も持って、目の前にやってくる。あいつの言っていた誤解ってなんだ?どういう意味だ?『誤解ならコクっちまう』のその意図は?
蝋燭から彼が火を点けて、俺に寄せくる。手が震えた。火薬臭い。指先が熱い。彼の顔が光っている。
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2023.7.31
「日和」な。
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