140 / 178
心透圧 ※
monogatary.comからの転載。
お題:「海の見える喫茶店」
***
潮騒の聞こえそうな気がした。気がしただけだった。ガラス張りで、なんとか窓辺の席に並ぶ文庫本なんかは日差しを避けてはいるけれど。青と白の表紙になってしまうな。色が抜けて。紫外線を浴びたら。
平然としているけれど、俺たちだってしがを浴びていては、肉体は劣化していく。ただ生きているだけで、酸化していく。息をしているだけで、悪化している。
ただシアワセニ暮らしているつもりで人と出会って、妙な心地になったりもする。確かめてみたくなって、傍にいてみて、柄にもなく多弁になって。相手も同じ気持ちだと知れたら、人間、気楽なものだ。いいや、俺だけか。欲が出る。付き合って、柵 を増やす。
水平線の上と下、きっぱり分けたようには、同じ自然界に生まれ堕ちたとて、そう上手くはいかない。いいや、空も海も、生む側か。
紫外線を浴び放題の本を1冊手に取ってみた。ブックカバーの掛かって題名は見えない。
漣 の音が聞こえるとすれば、俺の胸騒ぎか?
感化されたな、文学というやつに。
気を紛らわせることができても、根本の解決にはならなくて、けれども人生なんていうのに結局のところ解決策なんて要らなくて、いかに引き延ばして、誤魔化して、溜飲を下げていくか、だ。極論は。満たされなければ文学なんて、ただの高尚な栄養食だ。
頼んだコーヒーを飲む。相手の気持ちになってみること。手に取ったのはエッセイだ。
奇遇なことに、相手の気持ちになってみた。ミルク増し増し、ガムシロップを2つ入れて。そういうことではないのだろう。彼はコーヒーなんて頼まない。きっとコーラを頼んだ。最初 から違うのだ。相手の気持ちになれないところを擦り合わせていくのが言葉だろう。態度だろう。
寄せては返していく。これはなんだ?答えは漣だ。俺 の気持ちじゃない。彼の気持ちでもない。
太陽の下で海面は煌めいて、アスファルトは灼けるようで、雑草は炙られているみたいだ。そして俺はのうのうとクーラーに冷やされていて、だのに焦りきっている。コーヒーのコーヒー性を失って哀れな飲み物を啜って、[別れるか?]の答えを待っている。相手に委ねて。
海と空の偉大さに、自分の小ささを卑下できるほどの器もなく。ただ悪態を吐いて、見えるものすべてに当たり散らして。
初心を思い出すことも忘れた。初めてのデートの思い出というやつも、所詮は波打ち際に刻んだらくがきというわけさ。
***
2023.8.7
コーヒーのコーヒー性とゎ
ともだちにシェアしよう!