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アドリブの夏 ※
monogatary.comからの転載。
お題「この夏の挑戦」
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夏というのは暑過ぎて感傷に浸る。感傷という言葉を使うのなら、冬のほうがそうかもしれない。
けれど俺の住んでいる地域というのは夏場に熱中症になるリスクはあるけれど、室内にいれば冬場に凍死するようなことはなかった。寒ければ、着込むことも、暖房や炬燵や湯たんぽなんかがあるけれど、暑いからといって全裸になるというわけにはいかないし、氷は溶けていき、扇風機はあてにならない。
だから死に近い?いいや、多分、死が目立つのだ。花火もそうだろう。消えてゆくセミの声も。怪談だったりとか。叩き殺した蚊から噴き出す血液だとか?
違うな。俺にとっては、もっと別の理由がある。
俺にとっては。
よく灼けた墓石は、焼肉でもできそうだった。彼も好きだったし、不謹慎とは言うまいな?と、言ったって、彼の親族も入っているのだから好きにはできない。
夏休みも半ばだった。海へ行き、キャンプへ行き、BBQをして、スイカ割りに流しそうめん、地元の大きな祭りにも行くのが恒例……だったよな。
けれど今年はそれがない。今年からは。秋と冬と春。経た季節はまぁなんとかやれた。アドリブだ。夏は思い出があり過ぎる気もする。
どう過ごす?お前のいない夏を。
ひとつの「新しいこと」みたいだった。どう過ごす?俺は?俺は彼のいない夏を。
墓石に水をやる。コーラがよかったか?物足りないとは言うまい。ああ、言わないんだよ。死んだ人間は何も言わない。何も思わない。ここでコーラをかけてやったところで、俺の良心が痛み、俺の中の彼は喜ぶ。妄想だ。答え合わせのできる相手がいないのでは。
頭からかけてやる。マナー違反か?けれどこれだけは譲れない。墓石が彼の代わりであるのなら。ここに立ち尽くして、花火大会にも行けやしない。でもそんなことはない。すべては自己満足で、彼はどこにもいなくて、この夏をどう過ごすかも考えられずに、ただ息をして飯を食って涼みながら寝て暮らしいけば、それでいいのかだとか考えている。
花火でもやってやろうか?死者のための墓とはいえ、生きている奴等の世界に物理的に存在しているわけで、ここでやるわけにもいかないけれど、ここにいるわけでもないのだろう。どこにいるわけでもないのだろう。もしいるのだとしたら、それは俺の幻想のなかで、俺の観念 でしかないのだろう。
それでこの行為は、何人もいる彼をひとつに統合する儀式でしかないのだろう。
ああ、今年はどう過ごせばいい?
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2023.8.14
また「彼」死んどるが
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