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下手の横好き縦に隙あり ※
monogatary.comからの転載。
お題「3行で夏を感じよう」
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『灰色の
海かな
光が 揺らめいて 』
俺は句帳に赤を走らせた。最近、だめだった。悶々とした事柄に気を取られている自覚はある。
『ひまわりの
行方を目で追う
君がいる 』
また赤ペンが走る。だめだ。チャチなラブソングを作りたいのではないのだ。邪な感情を寄せた途端、同じ人間をやたらと神聖視した閉鎖的な歌なんてくだらない。
『緑陰の
下ではにかむ
あせっかき』
いけない、いけない。離れるべきだ。一体誰のことを書こうとしているのか。いつだって創作に恋愛というものは邪魔だった。飯も喉を通らない。
趣味がないのならやってみろ、とは先輩の言葉だった。大体のことは理解してしまうとつまらなくなる。俺にはこだわりも趣味もなかった。同時に特技もなかった。抜きん出た技術を特技というのなら、満遍なくできてしまう平均的な俺に秀でたものなどない。
けれど、これはなかなか難しい。良し悪しも分からないまま作り続けるしかない。
まず、発句を「の」で終わらせるのをやめるべきか。
『かき氷
逆富士山の
青と白 』
ブルーハワイを説明しているだけの句だ。面白みがない。
「何むずかし~カオしてんだ?」
テーブルの向こうで、彼がかき氷を突ついている。
「ゔぇ」
俺が答えるより先に、彼は口を大きく開いて舌を伸ばした。
「エイリアンになってる?」
舌は青く染まっていた。
「なってる」
自分からは見えないくせに彼は嬉しそうに笑っている。そこまで愉快なことだろうか?
『氷食う
俺のかわいい
エイリアン 』
俺はまたペンを走らせた。「氷」が冬の季語になってしまう。「かき氷」にすべきか。それだと俺はかき氷を愛でていることになるのか?
『夏氷食う
愛らしい
エイリアン』
これは保留だ。
「何してんの?」
「歌を作ってるんだ」
「あれ?オマエ、ミュージシャンなんだっけ?」
彼は喋りながら、俺の頼んだソフトクリームをねだった。マイクみたいに突き出してやる。
『舐めとるか
入道雲を
青い舌 』
ちょっとニッチか。これはテイッターじゃないんだぞ。
『食べ足りぬ。
口の端には
夏雲が』
「なんだ、なんだ?」
「なんでもないさ」
「なんで口の端にナツグモなん?」
彼は俺の句帳を覗いた。唇の端にクリームがついているのがバレてしまった。
「最近の趣味だ。5・7・5にするんだ」
「ふぅん。クソ暑い でも楽しかったよ あああちぃ。かき氷 頭が痛い 冷たくて」
彼は指を順に折る。
『夏空に
君の姿を
影送り』
なんだかチープな気がした。けれどこれで出して、落ちることにした。
***
2023.8.17
7・7・7・5が好き
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