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下手の横好き縦に隙あり ※

monogatary.comからの転載。 お題「3行で夏を感じよう」 *** 『灰色の  海かな  光が 揺らめいて 』  俺は句帳に赤を走らせた。最近、だめだった。悶々とした事柄に気を取られている自覚はある。 『ひまわりの 行方を目で追う 君がいる 』  また赤ペンが走る。だめだ。チャチなラブソングを作りたいのではないのだ。邪な感情を寄せた途端、同じ人間をやたらと神聖視した閉鎖的な歌なんてくだらない。 『緑陰の 下ではにかむ あせっかき』  いけない、いけない。離れるべきだ。一体誰のことを書こうとしているのか。いつだって創作に恋愛というものは邪魔だった。飯も喉を通らない。  趣味がないのならやってみろ、とは先輩の言葉だった。大体のことは理解してしまうとつまらなくなる。俺にはこだわりも趣味もなかった。同時に特技もなかった。抜きん出た技術を特技というのなら、満遍なくできてしまう平均的な俺に秀でたものなどない。  けれど、これはなかなか難しい。良し悪しも分からないまま作り続けるしかない。  まず、発句を「の」で終わらせるのをやめるべきか。 『かき氷 逆富士山の 青と白 』  ブルーハワイを説明しているだけの句だ。面白みがない。 「何むずかし~カオしてんだ?」  テーブルの向こうで、彼がかき氷を突ついている。 「ゔぇ」  俺が答えるより先に、彼は口を大きく開いて舌を伸ばした。 「エイリアンになってる?」  舌は青く染まっていた。 「なってる」  自分からは見えないくせに彼は嬉しそうに笑っている。そこまで愉快なことだろうか? 『氷食う 俺のかわいい エイリアン 』  俺はまたペンを走らせた。「氷」が冬の季語になってしまう。「かき氷」にすべきか。それだと俺はかき氷を愛でていることになるのか? 『夏氷食う 愛らしい エイリアン』  これは保留だ。 「何してんの?」 「歌を作ってるんだ」 「あれ?オマエ、ミュージシャンなんだっけ?」  彼は喋りながら、俺の頼んだソフトクリームをねだった。マイクみたいに突き出してやる。 『舐めとるか 入道雲を 青い舌 』  ちょっとニッチか。これはテイッターじゃないんだぞ。 『食べ足りぬ。 口の端には 夏雲が』 「なんだ、なんだ?」 「なんでもないさ」 「なんで口の端にナツグモなん?」  彼は俺の句帳を覗いた。唇の端にクリームがついているのがバレてしまった。 「最近の趣味だ。5・7・5にするんだ」 「ふぅん。クソ暑い でも楽しかったよ あああちぃ。かき氷 頭が痛い 冷たくて」  彼は指を順に折る。 『夏空に 君の姿を 影送り』    なんだかチープな気がした。けれどこれで出して、落ちることにした。 *** 2023.8.17 7・7・7・5が好き

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