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二重訂正線 ※
monogatary.comからの転載。
お題「キライとの付き合い方」
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視界の端で何か光って、見遣ればボールペンの銀色だった。プラスチックの表面に、銀色のクリップ。
ボールペンというやつはすぐにインクが出なくなって、値段のなのかと思うと意外とそうでもなかった。有名な文具メーカーのボールペンでも、インクがあるというのにすぐに出なくなるものもあれば、無名メーカーだったり、安物だというのに長持ちするものもある。
人間にも、そういうところがあるのかも知れない。いいや、その"意外性"が印象に残るだけなのだろう。
大嫌いだ。俺は使えないものはすぐに捨てたい性分なのに。
確かもうインクの出ないはずだったボールペンを手に取ってみる。それなら捨ててしまえばいい。ボールペンとしての存在価値 を失ったのだから。
大嫌いだ。俺に無駄なことをさせる。
ノックして、ペン先が突き出る。もう長いこと使っていないのに、そのクリップもペン先もまだ艶やかな銀色をしていた。
その辺にあった紙にペンを走らせた。表面に小さな溝を作るだけ。瑕をつけるだけだった。これはもう捨てるものなのだ。
大嫌いだ。俺を感傷に浸らせる。
これは捨てていいものなのだ。だが捨てられはしなかった。だからそこに意味を持ちたかった。
おそらくインクは乾いていて、芯には残って見えるけれど、書けないのなら意義 はない。
ペン先はただひたすらに紙を彫る。直線、渦巻き波線。心電図にも似ていた。
インクは出ない。これはそろそろ捨ててしまうべきものなのだ。
静物 に感情はない。けれど感情を見出す。それが生き物に近ければ尚のこと。それは分かる。共感もする。けれどこれはただのボールペンだった。ゴミ箱に翳してみたところで何ら困ることのない、分別としても間違ってはいないことなのだ。けれど虚しさが訪れるのだ、俺の胸には。泣きたくなるのだ、突然に。
これをくれた人は、もうこの世にはいなかった。
最初から最後まで馬の合わないやつだった。
プレゼントとは言えない、ただ事の成り行きとしてくれたものに過ぎなかった。あの日のことはよく覚えている。貰ったからやるよ。確かそう言った。店名はもう半分、剥げているけれど。大量発注の安いボールペンだった。
本当はずっと好きだった。嫌いなわけなかった。けれど二重線を引くしかなかった。消 せやしないのに。
延々と、ぐるぐると、はっきりしない。
ふと我に帰る。手元を見れば紙が濡れていた。黒い滲みを遺して。
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2023.9.12
「need you訂正線」
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