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泳いでいく ※

monogatary.comからの転載。 お題『「結論から言うね」から始まる物語』 *** 「結論から言うと伝わりやすい、って、言ってたろ?」  水族館の帰り、空いた電車の中だった。すでに地元に近い、田舎の3両編成。1時間ほど前まで龍みたいな15両に乗っていたのに、今やドジョウに乗っている。 「水族館で、魚みてるオマエの姿見ててさ、なんか、色々考えてたんだよ。まだ言ってなかったことあるな、とか、ちゃんと言えるかな、とか……」  結局、彼は彼らしかった。「結論から言う」と言っておきながら、まだ核心部に触れていない。けれどそれでよかった。嫌な予感がした。事実を知ることは果たして幸せといえるだろうか?足掻く(すべ)が無いなら、そうは思わない。けれど知らなければ、それすらも分からない矛盾も含む。 「……なんだ」 「う~ん。やっぱダメだった。ごめん、付き合えない」  ほぼ付き合っているものだと思っている。彼が俺を好きなのは理解していたし、俺も彼が好きなことを隠してはいないはずだ。寄せられている情を疑うことさえできない。酸素がそこにあるように、当然として身に染みていた。 「どうして」  付き合っていなかったとして、もう付き合っているも同然だった。だとすれば何が理由なのだろう。何が変わるというのだろう。自己認識と、ある種、世間から受けるイメージの問題か。 「うん………結論から言うのって、難しいな。オマエは、結論と気持ちがさ、違ったとき、どうするの」 「俺たちは機械じゃない。感情的になるのは当然で、だから折り合うしかない。結論と」  わざとらしい笑い方が怖かった。結論から言え、だなんて俺も頭の悪いことを言った。人には人のやり方がある。  彼の降りる駅が近付いていた。焦る。それは俺だけではなく。 「あのね………えっと、検査の結果がよくなかった――っていうか、悪かった。だからさ、付き合わないで、このままでもいいかなって」 「え……」 「ま、付き合ってるようなものだけどさ、建前ってあるじゃん。これから入院することになるし、多分すぐ出てこられないし、今日、すっげぇ楽しかった!だからさ、……」  彼はへらへら笑っている。俺に気を遣っている。そんな立場じゃないくせに。 「付き合おう。なら、尚更、付き合ってほしい」  俺は結論から言うぞ。 「は?なんで……?話、聞いてた?」 「別にこのままでもいいと思ってた。でも、そういうことなら……お前の生活が変わるのなら、俺は尚のこと、付き合いたい」  電車が停まる。彼は呆然としていて、俺はその手を引いた。 *** 2023.9.15 過去作と逆転してみた

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