162 / 178

フレネミー ※

monogatary.comからの転載。 お題「ボク、負けないよ」 ***  心配しているふりだった。そこには多分な下心もある。  誰かを貶めればそれだけ、こちらが利を得るシーソーのようなシステムみたいに。  この世にある幸せの分量は決められていて、それを奪り合っている。俺たちは。懐疑的だった。けれどそうだと思い直した。悠々と暮らしているどこかで誰かが働き命を落としている。好いた相手に恋い焦がれている間にその人はその人が好いた相手に愛を求め殴られている。 「へへへ、負けてらんないっしょ」  彼は誤魔化しているし間違っている。暴力を嫌がって別れを切り出すことを逃げ、ひいては負けだと思っている。それどころか暴力を暴力として認識すらしていないかもしれなかった。彼が嫌がっているのは束縛と痛みと目に見える傷跡だ。  だから話にならない。2人の世界で完結している。閉鎖的なのだ。俺はシャットアウトされている。 「負けるのは、ダメか」 「ダメだろ、負けちゃ」  まるで俺の相談にのっているみたいだった。背中を押すような笑みには痣が目立って痛々しい。  子供なら虐待としてすぐにそれらしい機関に繋げられるのに。 「勝つってのは、どういうことなんだ」  俺たちは強さに憧れて育つ。優しさよりも。かっこよさよりも。いい子であることよりも。強さはそれらを包括している気になって。その証が、勝ち、だ。  褒め言葉というのは手放しで吐いていいものではないのだろうな。人のアイデンティティに関わる。彼を雁字搦めにしている。曖昧な言葉だ、強さなんて。勝利だなんて。明確そうなものなのに。  間違うことを恐れた目は上目遣いで弱者を気取る。俺は視線を()ち合わせたまま腕を振り上げた。大きな目が揺れて惑う。 「ごめ………っ」  殴ってやりたいと思った。彼をこんなふうにしたヤツを。こんなふうになってもまだ意地を張る彼のことも。暴力では何も解決しない。ただ形式だけの収束だけだ。期待できるのは。けれどこの選択が浮かんだときに、俺もろくな人間ではなかったと知るのだ。支配欲だ。嫉妬だ。負け惜しみなのだ。ただ奪い取りたいだけなのだ。そこに愛はない。エゴだけがある。 「別に負けてもよくないか」  負けることは、弱いことだ。"正しく"ないことで、赦されない、醜いことだ。そういうふうに育つ。疑う間もなく刷り込まれる。 「応援、してくれよ」  それは何の落胆だったのだろう。俺が味方でなかったことか?それとも外に出てきて現状が見えてきてしまったことか。 *** 2023.9.20 損する勝ち利する負けとゎ

ともだちにシェアしよう!