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終末を待つ年末の週末すぐ門松
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「明後日でさ、今年が終わるぢゃん」
大掃除を終えて、彼とこたつで休んでいた。年末の挨拶にもらったバウムクーヘンを食いながら。
大掃除といっても、特にそんなやることはなかった。大体のことは終わらせていたし、年末はできるだけゆっくり過ごしたいから早めに済ませておいた。
「そうだな」
あまり好景気とはいえないが、いい国だと思ってしまうのは、寒さとこたつと食事のせいか。この季節は尚のこと。
「なんかあんまり、そんな気しねぇよな~」
「暖冬だからか?」
朝も夜も寒く、夏より気温が低いのは確かだけれど、日差しは強く、ストーブはやり過ぎで、こたつも少し熱いくらいだ。
「"慣れ"かね。昔は年が変わるってすごいことに感じたケド」
「お年玉を渡す側になったからだろう」
「それは、あるね」
食べかすを拾う彼を、俺を眺めていた。
「意外と世界が終わるってときも、こんなもんだったりして」
俺の悪い癖だと思う。不毛なことを考えた。明日があると漠然と思い込んでいるのと、思い込みきれないのでは、多分ここでかける言葉も違うのだろう。
「変わるのは、数字と干支だ」
「はぇ?」
「ただ、新しい0を越えて、また繰り返すってことだ」
表現するのは苦手だった。教えるように、伝わるように……
「オレはオマエとなら、今、世界終わっても、いいケドな」
ふと真面目な顔が、俺の目を捉えていた。何か悩み事でもあるのだろうか―……
「だってシアワセだもんな。天国に近い気がする。寒いケド晴れた日に、好きなヤツとこたつ入ってぬくぬくすんの」
そして急に、目を眇めて白い歯を見せ、そんなことを言うものだから、俺は驚いてしまった。裏を読もうとしてしまう。捻くれた人間だから。
「同感ではあるが、困るな、それは。俺はお前とだから、次の春を楽しみにしているんだ。夏も、秋も、そのまた冬も……」
変わるのは多分、西暦だけではないのだろう。俺も変わっていくのだろう。劇的ではないそれが少し怖くもある。けれど悪くはないのかもしれない。変わらないものもあるけれど、変わっていくものを大切にできる気がした。彼となら。
「オレも楽しみッ!」
もし今年ではなく世界が終わるのなら、語りきれないことがたくさんある。ひとつひとつ思い出を引っ張り出して、感謝したいことが。すべて伝えきれないことも。
そのときまで直接には言わない。遠回し遠回りでも、いずれは近付いてくるものさ。
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2023.12.29
「世界が終わるときもこんなものかな」っていうのをやりたかった。
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